『方丈記』原文と現代語訳(12)他力より自力|それ人の友とある者は

『方丈記』後半では、鴨長明が世間から距離を置き、小さな庵で静かに暮らす姿が描かれていきます。

その中で長明は、人を頼り、人を使い、多くを抱える生き方よりも、自分の手足を使って身軽に生きることに安らぎを見出しました。

『方丈記』「他力より自力」では、「手を下僕、足を乗り物とす」という印象的な言葉とともに、長明独自の人生観が語られます。

なぜ長明は、人よりも自分の身体を頼る暮らしを選んだのでしょうか。

原文・現代語訳・語釈付きで紹介します。

目次

方丈記「他力より自力」原文・語釈・現代語訳

それ、人の友とある者は

原文

それ、人の友とある者は、富めるをたふとみ、ねんごろなるをさきとす。必ずしも、なさけあると、なほなるとをば愛せず。ただ、ちくくわげつを友とせんにはしかじ。

語釈

  • ねんごろ【懇ろ】:親しいようす。仲むつまじいようす。
  • すなほ【素直】:ありのままで素朴なさま。心がまっすぐであるさま。
  • しちく【糸竹】:楽器の総称。「糸」は琴・琵琶などの弦楽器、「竹」は笙・笛などの管楽器を表す。
  • くわげつ【花月】:美しい自然の風物。

現代語訳

そもそも、人の友というものは、富のある人を敬い、親しくなろうとすることを第一とする。必ずしも、情のある人や、誠実な人を愛するわけではない。ただ、音楽や自然を友とする方がましだ。

人の奴たる者は

原文

人のやつこたる者は、しやうばつはなはだしく、おんあつきを先とす。さらに、はぐくみあはれむと、安くしづかなるとをば願はず。ただ、わが身をとするにはしかず。

語釈

  • やつこ【奴】:召使い。
  • しやうばつ【賞罰】:賞与。「罰」は賞に添えた語。
  • ぬひ【奴婢】:召使い。

現代語訳

人に仕える者は、褒美が多く、恩恵が厚いことを第一とする。決して、面倒見がよく、物腰柔らかな主人を求めるわけではない。ただ、我が身を下僕とする方がましだ。

いかが奴婢とするならば

原文

いかがとするならば、もし、なすべき事あれば、すなはち、おのが身を使ふ。たゆからずしもあらねど、人を従へ、人をかへりみるより安し。

語釈

  • たゆし【弛し・懈し】:疲れて力がない。だるい。

現代語訳

いかにして下僕とするかと言うと、もし、何かやるべきことがあれば、まず己の身を使う。疲れないわけではないが、人を使って、世話をするよりは安心である。

もし、歩くべき事あれば

原文

もし、ありくべき事あれば、みづからあゆむ。苦しといへども、馬、鞍、牛、車と、心を悩ますにはしかず。

現代語訳

もし、歩くべきことがあれば、自分の足で歩く。苦しいと言っても、馬や鞍、牛や車のことで、いちいち悩むよりはましだ。

今、一身を分かちて

原文

今、一身を分かちて、二つの用をなす。手のやつこ、足の乗り物、よくわが心にかなへり。身、心の苦しみを知れれば、苦しむ時は休めつ、まめなれば使ふ。使ふとても、たびたびさず、ものしとても、心を動かす事なし。

語釈

  • まめ【忠実・実】:健康なようす。丈夫なようす。
  • ものうし【物憂し】:なんとなく心が重い。おっくうだ。つらい。苦しい。いやだ。

現代語訳

今、我が身一つを分けて、二つの用をなす。手を下僕、足を乗り物とすれば、自分の思い通りになる。我が身は心の苦しみがわかるから、苦しい時は休めて、元気な時は使う。使うとしても、使い過ぎることはない。気が重いとしても、心が思い乱れることはない。

いかにいはむや、常に歩き

原文

いかにいはむや、常にありき、常にはたらくは、養性やうじやうなるべし。なんぞ、いたづらに休みらん。

語釈

  • いたづら【徒ら】:むだである。無益である。

現代語訳

さらに言うと、常に歩き、常に働くことは、養生になるだろう。どうして、無駄に休んでいられようか。

人を悩ます、罪業なり

原文

人を悩ます、ざいごふなり。いかが、他の力をるべき。

語釈

  • さいごふ【罪業】:〘仏教語〙(来世で報いを受ける)罪深い行い。

現代語訳

人を悩ますことは、罪業ざいごうである。どうして、他の力を借りられようか。

方丈記「他力より自力」原文全文

 それ、人の友とある者は、富めるをたふとみ、ねんごろなるをさきとす。必ずしも、なさけあると、なほなるとをば愛せず。ただ、ちくくわげつを友とせんにはしかじ。

 人のやつこたる者は、しやうばつはなはだしく、おんあつきを先とす。さらに、はぐくみあはれむと、安くしづかなるとをば願はず。ただ、わが身をとするにはしかず。

 いかがとするならば、もし、なすべき事あれば、すなはち、おのが身を使ふ。たゆからずしもあらねど、人を従へ、人をかへりみるより安し。

 もし、ありくべき事あれば、みづからあゆむ。苦しといへども、馬、鞍、牛、車と、心を悩ますにはしかず。

 今、一身を分かちて、二つの用をなす。手のやつこ、足の乗り物、よくわが心にかなへり。身、心の苦しみを知れれば、苦しむ時は休めつ、まめなれば使ふ。使ふとても、たびたびさず、ものしとても、心を動かす事なし。

 いかにいはむや、常にありき、常にはたらくは、養性やうじやうなるべし。なんぞ、いたづらに休みらん。

 人を悩ます、ざいごふなり。いかが、他の力をるべき。

方丈記「他力より自力」現代語訳全文

 そもそも、人の友というものは、富のある人を敬い、親しくなろうとすることを第一とする。必ずしも、情のある人や、誠実な人を愛するわけではない。ただ、音楽や自然を友とする方がましだ。

 人に仕える者は、褒美が多く、恩恵が厚いことを第一とする。決して、面倒見がよく、物腰柔らかな主人を求めるわけではない。ただ、我が身を下僕とする方がましだ。

 いかにして下僕とするかと言うと、もし、何かやるべきことがあれば、まず己の身を使う。疲れないわけではないが、人を使って、世話をするよりは安心である。

 もし、歩くべきことがあれば、自分の足で歩く。苦しいと言っても、馬や鞍、牛や車のことで、いちいち悩むよりはましだ。

 今、我が身一つを分けて、二つの用をなす。手を下僕、足を乗り物とすれば、自分の思い通りになる。我が身は心の苦しみがわかるから、苦しい時は休めて、元気な時は使う。使うとしても、使い過ぎることはない。気が重いとしても、心が思い乱れることはない。

 さらに言うと、常に歩き、常に働くことは、養生になるだろう。どうして、無駄に休んでいられようか。

 人を悩ますことは、罪業ざいごうである。どうして、他の力を借りられようか。

鴨長明『方丈記』の参考書籍

  • 浅見和彦『方丈記』(2011年 ちくま学芸文庫)
  • 浅見和彦『方丈記』(笠間書院)
  • 安良岡康作『方丈記 全訳注』(1980年 講談社)
  • 簗瀬一雄訳注『方丈記』(1967年 角川文庫)
  • 小内一明校注『(影印校注)大福光寺本 方丈記』(1976年 新典社)
  • 市古貞次校注『新訂方丈記』(1989年 岩波文庫)
  • 佐藤春夫『現代語訳 方丈記』(2015年 岩波書店)
  • 中野孝次『すらすら読める方丈記』(2003年 講談社)
  • 濱田浩一郎『【超口語訳】方丈記』(2012年 東京書籍)
  • 城島明彦『超約版 方丈記』(2022年 ウェッジ)
  • 小林一彦「NHK「100分 de 名著」ブックス 鴨長明 方丈記」(2013年 NHK出版)
  • 木村耕一『こころに響く方丈記 鴨長明さんの弾き語り』(2018年 1万年堂出版)
  • 水木しげる『マンガ古典文学 方丈記』(2013年 小学館)
  • 五味文彦『鴨長明伝』(2013年 山川出版社)
  • 堀田善衛『方丈記私記』(1988年 筑摩書房)
  • 梓澤要『方丈の狐月』(2021年 新潮社)
  • 『京都学問所紀要』創刊号「鴨長明 方丈記 完成八〇〇年」(2014年 賀茂御祖神社(下鴨神社)京都学問所)
  • 『京都学問所紀要』第二号「鴨長明の世界」(2021年 賀茂御祖神社(下鴨神社)京都学問所)

実際に読んだ『方丈記』の関連本を以下のページでご紹介しております。

『方丈記』を初めて読む方にも、何度か読んだことがある方にもオススメの書籍をご紹介しておりますので、ぜひご覧ください♪

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