このページでは、鴨長明『発心集』第5巻の第54話「少納言統理、遁世の事」について、原文の品詞分解と係り結び、敬語表現をまとめています。現代語訳とあわせて確認したい方は、発心集「少納言統理、遁世の事」現代語訳をご覧ください。
目次
「少納言統理、遁世の事」品詞分解
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少納言統理と聞こえける人
少納言統理と聞こえける人、
- 少納言:名詞。官職名。
- 統理:名詞。人名。
- と:格助詞。引用。
- 聞こえ:ヤ行下二段活用「聞こゆ」の連用形。謙譲語。申し上げる。ここでは人をその名でお呼びする。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- 人:名詞。
年ごろ、「世を背かん」と思ふ
- 年ごろ:名詞。長年。数年来。
- 世:名詞。俗世間。
- を:格助詞。
- 背か:カ行四段活用「背く」の未然形。「世を背く」で出家・遁世する。
- ん:意志の助動詞「む」の終止形。「む」が「ん」と表記されたもの。出家しよう。
- と:格助詞。引用。
- 思ふ:ハ行四段活用「思ふ」の連体形。
心ざし深かりしが、月くまなかりけるころ、
- 心ざし:名詞。志。出家しようという意志。
- 深かり:ク活用の形容詞「深し」の連用形。
- し:過去の助動詞「き」の連体形。
- が:接続助詞。前の事柄を受け、次の事柄へ続ける。
- 月:名詞。
- くまなかり:ク活用の形容詞「くまなし」の連用形。曇りや暗いところがない。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- ころ:名詞。
心を澄ましつつ、つくづくと思ひ居たるに、
- 心:名詞。
- を:格助詞。
- 澄まし:サ行四段活用「澄ます」の連用形。
- つつ:接続助詞。継続・並行。~ながら。
- つくづく:副詞。じっと。しみじみと。
- と:格助詞。状態を表す。
- 思ひ:ハ行四段活用「思ふ」の連用形。
- 居:ワ行上一段活用「居る」の連用形。座っている。
- たる:存続の助動詞「たり」の連体形。
- に:接続助詞。~ていると。~ところ。
山深く住まんことの
- 山:名詞。
- 深く:ク活用の形容詞「深し」の連用形。
- 住ま:マ行四段活用「住む」の未然形。
- ん:意志の助動詞「む」の連体形。「む」が「ん」と表記されたもの。住もうという。
- こと:名詞。
- の:格助詞。主格。~が。
なほせちに思えければ、まづ家に、
- なほ:副詞。やはり。いっそう。
- せちに:ナリ活用の形容動詞「せちなり」の連用形。切実だ。ひたすらだ。
- 思え:ヤ行下二段活用「思ゆ」の連用形。自然と思われる。「おぼえ」と読む。
- けれ:過去の助動詞「けり」の已然形。
- ば:接続助詞。確定条件。~ので。
- まづ:副詞。まず。
- 家:名詞。ここでは家の人・家族。
- に:格助詞。働きかける相手を表す。
「ゆするまうけせよ。
- ゆする:名詞。洗髪・整髪に使う湯水。
- まうけ:名詞。準備。用意。
- せよ:サ行変格活用「す」の命令形。
ものへ行かん」と言ひて、
- もの:名詞。ここでは出向いて行く場所。
- へ:格助詞。方向。
- 行か:カ行四段活用「行く」の未然形。
- ん:意志の助動詞「む」の終止形。「む」が「ん」と表記されたもの。行こう。
- と:格助詞。引用。
- 言ひ:ハ行四段活用「言ふ」の連用形。
- て:接続助詞。
髪洗ひけづり、帽子なんどしける。
- 髪:名詞。
- 洗ひ:ハ行四段活用「洗ふ」の連用形。
- けづり:ラ行四段活用「けづる」の連用形。髪をくしでとかす。
- 帽子:名詞。烏帽子。
- なんど:副助詞。「など」の変化した形。例示。
- し:サ行変格活用「す」の連用形。ここでは烏帽子をかぶる。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。連体止め。
気色や知りたりけん、
- 気色:名詞。様子。ここでは夫が出家しようとしている様子。
- や:係助詞。疑問。結びは「けん」。
- 知り:ラ行四段活用「知る」の連用形。
- たり:完了の助動詞「たり」の連用形。
- けん:過去推量の助動詞「けむ」の連体形。「けむ」が「けん」と表記されたもの。係助詞「や」の結び。知ったのであろうか。
妻なりける人、心得て、
- 妻:名詞。
- なり:断定の助動詞「なり」の連用形。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- 人:名詞。
- 心得:ア行下二段活用「心得(こころう)」の連用形。事情や気持ちを理解する。
- て:接続助詞。
さめざめとなむ泣きける。
- さめざめ:副詞。しきりに涙を流して泣く様子。
- と:格助詞。状態を表す。
- なむ:係助詞。強意。結びは「ける」。
- 泣き:カ行四段活用「泣く」の連用形。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。係助詞「なむ」の結び。
されども、かたみにとかく言ふこともなくて、
- されども:接続詞。けれども。
- かたみに:副詞。互いに。
- とかく:副詞。あれこれと。
- 言ふ:ハ行四段活用「言ふ」の連体形。
- こと:名詞。
- も:係助詞。
- なく:ク活用の形容詞「なし」の連用形。
- て:接続助詞。
明くる日、うるはしきよそほひにて、
- 明くる:カ行下二段活用「明く」の連体形。「明くる日」で翌日。
- 日:名詞。
- うるはしき:シク活用の形容詞「うるはし」の連体形。きちんと整っている。
- よそほひ:名詞。装い。服装。「うるはしきよそほひ」で正装。
- にて:格助詞。状態・様態。~で。
その時の関白の御もとに詣でけり。
- その:連体詞。
- 時:名詞。
- の:格助詞。
- 関白:名詞。官職名。
- の:格助詞。
- 御:接頭語。尊敬の意を添える。
- もと:名詞。そば。ところ。
- に:格助詞。到着する場所。
- 詣で:ダ行下二段活用「詣づ」の連用形。謙譲語。参上する。
- けり:過去の助動詞「けり」の終止形。
このこと、案内聞こえむとすれど
「このこと、案内聞こえむ」とすれど、
- この:連体詞。
- こと:名詞。ここでは出家・遁世すること。
- 案内:名詞。取り次ぎを頼むこと。
- 聞こえ:ヤ行下二段活用「聞こゆ」の未然形。謙譲語。申し上げる。
- む:意志の助動詞「む」の終止形。申し上げよう。
- と:格助詞。引用。
- すれ:サ行変格活用「す」の已然形。「~むとす」で~しようとする。
- ど:接続助詞。逆接の確定条件。~けれども。
まうし入る人もなし。やや久しうありて、
- まうし入る:ラ行四段活用「まうし入る」の連体形。謙譲語。取り次いで申し上げる。
- 人:名詞。
- も:係助詞。
- なし:ク活用の形容詞「なし」の終止形。
- やや:副詞。ここでは時間がかなりたつ様子。
- 久しう:シク活用の形容詞「久し」の連用形「久しく」のウ音便。
- あり:ラ行変格活用「あり」の連用形。
- て:接続助詞。
からうじて山里にまかりこもるべき
- からうじて:副詞。ようやく。やっとのことで。
- 山里:名詞。
- に:格助詞。場所。
- まかり:ラ行四段活用「まかる」の連用形。謙譲語。退出する。ここでは俗世を離れる。
- こもる:ラ行四段活用「こもる」の終止形。山里に引きこもる。
- べき:意志の助動詞「べし」の連体形。山里に引きこもろうとする意向を表す。
暇まうせし間に、
- 暇:名詞。お暇。ここでは出家して山里へ退くことの許し。
- まうせ:サ行四段活用「まうす」の已然形。謙譲語。申し上げる。この本文では過去の助動詞「き」の連体形「し」に接続している。
- し:過去の助動詞「き」の連体形。
- 間:名詞。時。折。
- に:格助詞。
「まうせし」は「まうせ(動詞の已然形)+し(過去『き』の連体形)」と分解します。過去の助動詞「き」は通常、連用形に接続しますが、サ行四段動詞では「申せし」のように已然形に接続する例もあります。 参照:小学館『精選版 日本国語大辞典』「き」語誌(7)。
「しばし」とて、対面したまひて、
- しばし:副詞。少しの間。ここでは「少し待ちなさい」の意。
- とて:格助詞。引用。~と言って。
- 対面し:サ行変格活用「対面す」の連用形。
- たまひ:ハ行四段活用「たまふ」の連用形。尊敬の補助動詞。対面なさる。
- て:接続助詞。
御念珠たまはせて、
- 御:接頭語。尊敬の意を添える。
- 念珠:名詞。数珠。
- たまはせ:サ行下二段活用「たまはす」の連用形。尊敬語。お与えになる。
- て:接続助詞。
「後の世には頼むぞ」
- 後:名詞。
- の:格助詞。
- 世:名詞。「後の世」で来世。
- に:格助詞。
- は:係助詞。
- 頼む:マ行四段活用「頼む」の終止形。頼りにする。
- ぞ:終助詞。念を押す強意。ここでは係り結びを作らない。
とのたまひければ、涙をおさへつつ、
- と:格助詞。引用。
- のたまひ:ハ行四段活用「のたまふ」の連用形。尊敬語。おっしゃる。
- けれ:過去の助動詞「けり」の已然形。
- ば:接続助詞。確定条件。~ので。
- 涙:名詞。
- を:格助詞。
- おさへ:ハ行下二段活用「おさふ」の連用形。こらえる。
- つつ:接続助詞。継続・並行。~ながら。
数珠をばをさめて、
- 数珠:名詞。
- を:格助詞。
- ば:係助詞「は」の濁音化した形。「をば」で対象を取り立てる。
- をさめ:マ行下二段活用「をさむ」の連用形。しまう。
- て:接続助詞。
拝したてまつりて、出でにけり。
- 拝し:サ行変格活用「拝す」の連用形。拝礼する。
- たてまつり:ラ行四段活用「たてまつる」の連用形。謙譲の補助動詞。拝礼申し上げる。
- て:接続助詞。
- 出で:ダ行下二段活用「出づ」の連用形。
- に:完了の助動詞「ぬ」の連用形。
- けり:過去の助動詞「けり」の終止形。
僧賀聖の室に至りて
僧賀聖の室に至りて、
- 僧賀:名詞。僧の名。
- 聖:名詞。高徳の僧を指す呼び名。
- の:格助詞。
- 室:名詞。僧房。庵室。
- に:格助詞。到着する場所。
- 至り:ラ行四段活用「至る」の連用形。
- て:接続助詞。
本意のごとく頭おろしてけれど、
- 本意:名詞。かねてからの願い。宿願。
- の:格助詞。
- ごとく:比況の助動詞「ごとし」の連用形。~のとおりに。
- 頭:名詞。
- おろし:サ行四段活用「おろす」の連用形。「頭おろす」で髪をそり、出家する。
- て:完了の助動詞「つ」の連用形。出家してしまった。
- けれ:過去の助動詞「けり」の已然形。
- ど:接続助詞。逆接の確定条件。~けれども。
つくづくとながめがちにて、勤め行ふこともなし。
- つくづく:副詞。じっと。物思いに沈む様子。
- と:格助詞。状態を表す。
- ながめがちに:ナリ活用の形容動詞「ながめがちなり」の連用形。物思いにふけりがちである。「ながめ」は動詞「ながむ」の連用形に由来する。
- て:接続助詞。
- 勤め:マ行下二段活用「勤む」の連用形。
- 行ふ:ハ行四段活用「行ふ」の連体形。「勤め行ふ」で仏道修行をする。
- こと:名詞。
- も:係助詞。
- なし:ク活用の形容詞「なし」の終止形。
物思へる様にて、
- 物思へ:ハ行四段活用「物思ふ」の已然形。物思いをする。
- る:存続の助動詞「り」の連体形。物思いをしている。
- 様:名詞。
- に:断定の助動詞「なり」の連用形。
- て:接続助詞。
常は涙ぐみつつ居たりければ、
- 常:名詞。いつも。日ごろ。
- は:係助詞。
- 涙ぐみ:マ行四段活用「涙ぐむ」の連用形。
- つつ:接続助詞。継続・並行。~ながら。
- 居:ワ行上一段活用「居る」の連用形。
- たり:存続の助動詞「たり」の連用形。
- けれ:過去の助動詞「けり」の已然形。
- ば:接続助詞。確定条件。~ので。
聖のあやしみて、ゆゑを問ひけり。
- 聖:名詞。
- の:格助詞。主格。~が。
- あやしみ:マ行四段活用「あやしむ」の連用形。不審に思う。
- て:接続助詞。
- ゆゑ:名詞。理由。
- を:格助詞。
- 問ひ:ハ行四段活用「問ふ」の連用形。
- けり:過去の助動詞「けり」の終止形。
言ひやる方なくて、余りのままに、
- 言ひやる:ラ行四段活用「言ひやる」の連体形。思うことを十分に言い表す。
- 方:名詞。方法。すべ。「言ひやる方なし」で言いようがない。
- なく:ク活用の形容詞「なし」の連用形。
- て:接続助詞。
- 余り:名詞。ここでは思い余ること。
- の:格助詞。
- まま:名詞。成り行きに任せる意。
- に:格助詞。
「子生みはべるべき月に
- 子:名詞。
- 生み:マ行四段活用「生む」の連用形。
- はべる:ラ行変格活用「はべり」の連体形。丁寧の補助動詞。~ます。次の助動詞「べし」がラ変には連体形で接続するため、この形になる。
- べき:当然の助動詞「べし」の連体形。ここでは出産の予定を表す。産むはずの。
- 月:名詞。
- に:格助詞。
当りたる女のはべるが、
- 当り:ラ行四段活用「当る」の連用形。ちょうどその時期である。
- たる:存続の助動詞「たり」の連体形。
- 女:名詞。ここでは統理の妻。
- の:格助詞。主格。~が。
- はべる:ラ行変格活用「はべり」の連体形。丁寧語。おります。接続助詞「が」に続く。
- が:接続助詞。前の事柄を受け、次の事柄へ続ける。
思ひ捨てはべれど、さすがに心にかかりて」と言ふ。
- 思ひ捨て:タ行下二段活用「思ひ捨つ」の連用形。心にかけないようにする。思いを断ち切る。
- はべれ:ラ行変格活用「はべり」の已然形。丁寧の補助動詞。~ます。
- ど:接続助詞。逆接の確定条件。~けれども。
- さすがに:副詞。そうはいうものの、やはり。
- 心:名詞。
- に:格助詞。
- かかり:ラ行四段活用「かかる」の連用形。「心にかかる」で気にかかる。
- て:接続助詞。
- と:格助詞。引用。
- 言ふ:ハ行四段活用「言ふ」の終止形。
聖これを聞きて、やがて都に入りて、
- 聖:名詞。
- これ:代名詞。統理が妻のことを心配しているという話。
- を:格助詞。
- 聞き:カ行四段活用「聞く」の連用形。
- て:接続助詞。
- やがて:副詞。すぐに。そのまま。
- 都:名詞。
- に:格助詞。到着する場所。
- 入り:ラ行四段活用「入る」の連用形。
- て:接続助詞。
その家におはして尋ねたまふに、
- その:連体詞。
- 家:名詞。統理の家。
- に:格助詞。到着する場所。
- おはし:サ行変格活用「おはす」の連用形。尊敬語。いらっしゃる。
- て:接続助詞。
- 尋ね:ナ行下二段活用「尋ぬ」の連用形。様子を尋ねる。
- たまふ:ハ行四段活用「たまふ」の連体形。尊敬の補助動詞。お尋ねになる。
- に:接続助詞。~すると。~ところ。
今、子を生みやらで、悩み煩ふ折なりけり。
- 今:名詞。今まさにその時。
- 子:名詞。
- を:格助詞。
- 生みやら:ラ行四段活用「生みやる」の未然形。すっかり産み終える。
- で:接続助詞。打消の接続。~ないで。
- 悩み:マ行四段活用「悩む」の連用形。
- 煩ふ:ハ行四段活用「煩ふ」の連体形。「悩み煩ふ」で出産に苦しむ。
- 折:名詞。時。ちょうどその時。
- なり:断定の助動詞「なり」の連用形。
- けり:過去の助動詞「けり」の終止形。
聖祈りて生ませなんどして、
- 聖:名詞。
- 祈り:ラ行四段活用「祈る」の連用形。
- て:接続助詞。
- 生ま:マ行四段活用「生む」の未然形。
- せ:使役の助動詞「す」の連用形。産ませる。
- なんど:副助詞。「など」の変化した形。例示。
- し:サ行変格活用「す」の連用形。
- て:接続助詞。
人に尋ねつつ、うぶやしなひてなむ、
- 人:名詞。
- に:格助詞。尋ねる相手。
- 尋ね:ナ行下二段活用「尋ぬ」の連用形。
- つつ:接続助詞。継続・並行。~ながら。
- うぶやしなひ:ハ行四段活用「うぶやしなふ」の連用形。母子の健康を祈り、出産後の祝いをする。
- て:接続助詞。
- なむ:係助詞。強意。結びは次の「ける」。
乏しからぬほどにとぶらひたまひける。
- 乏しから:シク活用の形容詞「乏し」の未然形。不足している。
- ぬ:打消の助動詞「ず」の連体形。
- ほど:名詞。程度。
- に:格助詞。程度を表す。
- とぶらひ:ハ行四段活用「とぶらふ」の連用形。見舞う。世話をする。
- たまひ:ハ行四段活用「たまふ」の連用形。尊敬の補助動詞。お見舞いになる。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。前の係助詞「なむ」の結び。
かくて統理大徳
かくて、統理大徳、ひと方は心やすくなりぬれど、
- かくて:接続詞。こうして。
- 統理:名詞。人名。
- 大徳:名詞。徳の高い僧を指す呼び名。
- ひと方:名詞。片一方。ここでは妻の出産についての心配。
- は:係助詞。
- 心やすく:ク活用の形容詞「心やすし」の連用形。安心である。心が穏やかである。
- なり:ラ行四段活用「なる」の連用形。
- ぬれ:完了の助動詞「ぬ」の已然形。
- ど:接続助詞。逆接の確定条件。~けれども。
三条院、東宮とまうしける時、
- 三条院:名詞。三条天皇。
- 東宮:名詞。皇太子。
- と:格助詞。引用。
- まうし:サ行四段活用「まうす」の連用形。謙譲語。申し上げる。ここでは東宮とお呼びする。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- 時:名詞。
つねに仕へたてまつりしことの
- つねに:副詞。いつも。
- 仕へ:ハ行下二段活用「仕ふ」の連用形。お仕えする。
- たてまつり:ラ行四段活用「たてまつる」の連用形。謙譲の補助動詞。お仕え申し上げる。
- し:過去の助動詞「き」の連体形。
- こと:名詞。
- の:格助詞。主格。~が。
忘れがたく思えければ、たてまつれりける。
- 忘れがたく:ク活用の形容詞「忘れがたし」の連用形。忘れることが難しい。
- 思え:ヤ行下二段活用「思ゆ」の連用形。自然と思われる。「おぼえ」と読む。
- けれ:過去の助動詞「けり」の已然形。
- ば:接続助詞。確定条件。~ので。
- たてまつれ:ラ行四段活用「たてまつる」の已然形。謙譲語。差し上げる。ここでは和歌をお贈りする。
- り:完了の助動詞「り」の連用形。和歌をお贈りした。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。連体止め。
君に人なれな習ひそ
- 君:名詞。ここでは統理が仕えていた東宮。
- に:格助詞。慣れ親しむ相手。
- 人:名詞。ここでは「人よ」と呼びかける語として読む。
- なれ:ラ行下二段活用「なる(馴る)」の連用形。慣れ親しむ。ここでは「習ひ」につながる連用形として読む。
- な:副詞。終助詞「そ」と呼応して禁止を表す。
- 習ひ:ハ行四段活用「習ふ」の連用形。慣れる。親しむ。
- そ:終助詞。「な~そ」で~してはいけない。
奥山に入りての後はわびしかりけり
- 奥山:名詞。山の奥深いところ。
- に:格助詞。到着する場所。
- 入り:ラ行四段活用「入る」の連用形。
- て:接続助詞。
- の:格助詞。
- 後:名詞。
- は:係助詞。
- わびしかり:シク活用の形容詞「わびし」の連用形。寂しい。つらい。
- けり:詠嘆の助動詞「けり」の終止形。寂しくつらいことだなあ。
御返し、忘られず思ひ出でつつ
- 御:接頭語。尊敬の意を添える。
- 返し:名詞。返歌。
- 忘ら:ラ行四段活用「忘る」の未然形。ここでは下二段活用の「忘る」と区別する。
- れ:可能の助動詞「る」の未然形。~できる。
- ず:打消の助動詞「ず」の連用形。「忘られず」で忘れることができない。
- 思ひ出で:ダ行下二段活用「思ひ出づ」の連用形。思い出す。
- つつ:接続助詞。継続・並行。~ながら。
山人をしかぞ恋ひしきわれもながむる
- 山人:名詞。山に住む人。ここでは山に入って出家した統理。
- を:格助詞。恋しく思う対象。
- しか:副詞。そのように。あなたと同じように。
- ぞ:係助詞。強意。この本文では「恋ひしき」を結びと読む。
- 恋ひしき:シク活用の形容詞「恋ひし」の連体形。係助詞「ぞ」の結び。恋しい。
- われ:代名詞。一人称。ここでは返歌を詠んだ東宮。
- も:係助詞。あなたと同じく自分も、という意。
- ながむる:マ行下二段活用「ながむ」の連体形。物思いにふける。「しかぞ恋ひしき」でいったん句を切る読みでは連体止め。
掲載本文は「恋ひしき」なので、ここでは「しかぞ恋ひしき」で係り結びが成立すると読みます。「恋ひしく」とする本文では、「ぞ」の結びを末尾の「ながむる」に取ります。
とてたまはりけるに、
- とて:格助詞。引用。~という歌を。
- たまはり:ラ行四段活用「たまはる」の連用形。謙譲語。いただく。ここでは統理が東宮の返歌をいただく。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- に:接続助詞。~ところ。~ので。
涙のこぼれけるを、おさへつつ
- 涙:名詞。
- の:格助詞。主格。~が。
- こぼれ:ラ行下二段活用「こぼる」の連用形。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- を:格助詞。目的格。「涙のこぼれける」という連体形で終わるまとまりを受ける。
- おさへ:ハ行下二段活用「おさふ」の連用形。こらえる。
- つつ:接続助詞。継続・並行。~ながら。
居たりけるほどに、聖聞きて、
- 居:ワ行上一段活用「居る」の連用形。
- たり:存続の助動詞「たり」の連用形。
- ける:過去の助動詞「けり」の連体形。
- ほど:名詞。間。時。
- に:格助詞。
- 聖:名詞。
- 聞き:カ行四段活用「聞く」の連用形。
- て:接続助詞。
「東宮より歌たまはりたらん、
- 東宮:名詞。皇太子。
- より:格助詞。授与の出所。~から。
- 歌:名詞。和歌。
- たまはり:ラ行四段活用「たまはる」の連用形。謙譲語。いただく。
- たら:完了の助動詞「たり」の未然形。
- ん:仮定の助動詞「む」の連体形。「む」が「ん」と表記されたもの。「たまはりたらん」で、いただいたとしても、の意。
仏にやはなるべき。
- 仏:名詞。悟りを得た存在。
- に:格助詞。変化の結果。
- や:係助詞。反語。結びは「べき」。
- は:係助詞。「や」に添えて反語の意を強める。
- なる:ラ行四段活用「なる」の終止形。
- べき:可能の助動詞「べし」の連体形。係助詞「や」の結び。「やは~べき」で、~できようか、いやできない、の意。
この心にてはいかでか
- この:連体詞。
- 心:名詞。ここでは俗世への執着が残った心。
- にて:格助詞。状態・条件。~で。
- は:係助詞。
- いかで:副詞。どのようにして。「か」とともに反語を表す。
- か:係助詞。反語。結びは次の「ん」。
生死を離れんぞ」と恥ぢしめけり。
- 生死:名詞。仏教語。生死を繰り返す、迷いの世界。
- を:格助詞。離れる場所・領域。
- 離れ:ラ行下二段活用「離る」の未然形。
- ん:推量の助動詞「む」の連体形。「む」が「ん」と表記されたもの。前の係助詞「か」の結び。「いかでか~ん」で、どうして~できようか、いやできない、の意。
- ぞ:終助詞。強意。反語の判断を強く言い切る。
- と:格助詞。引用。
- 恥ぢしめ:マ行下二段活用「恥ぢしむ」の連用形。戒める。気を引き締めさせる。
- けり:過去の助動詞「けり」の終止形。
「少納言統理、遁世の事」の係り結びまとめ
係助詞「ぞ・なむ・や・か」の結びは連体形、「こそ」の結びは已然形になります。この話では、次の係り結びを確認できます。
| 本文 | 係助詞 | 結び(活用形) |
|---|---|---|
| 気色や知りたりけん | や(疑問) | けん(過去推量「けむ」の連体形) |
| さめざめとなむ泣きける | なむ(強意) | ける(過去「けり」の連体形) |
| うぶやしなひてなむ、乏しからぬほどにとぶらひたまひける | なむ(強意) | ける(過去「けり」の連体形) |
| しかぞ恋ひしき | ぞ(強意) | 恋ひしき(形容詞「恋ひし」の連体形) |
| 仏にやはなるべき | や(反語) | べき(可能「べし」の連体形) |
| いかでか生死を離れんぞ | か(反語) | ん(推量「む」の連体形) |
返歌は、掲載本文の「恋ひしき」に合わせ、「ぞ―恋ひしき」で係り結びを取っています。「頼むぞ」の「ぞ」と「離れんぞ」の文末の「ぞ」は終助詞として扱い、上の表の係助詞「ぞ」と区別します。
「少納言統理、遁世の事」の敬語表現と敬意の方向まとめ
地の文では作者から対象の人物への敬意、会話文では話し手から対象の人物への敬意を示します。尊敬語は動作をする人を高め、謙譲語は動作を受ける人を高めます。丁寧語は話の聞き手に対する敬意を表します。
尊敬語
| 敬語 | 方向 | 意味 |
|---|---|---|
| 対面したまひて | 作者 → 関白 | 対面なさって |
| たまはせて | 作者 → 関白 | お与えになって |
| のたまひければ | 作者 → 関白 | おっしゃったので |
| おはして | 作者 → 僧賀聖 | いらっしゃって |
| 尋ねたまふ | 作者 → 僧賀聖 | お尋ねになる |
| とぶらひたまひける | 作者 → 僧賀聖 | お見舞いになった |
謙譲語
| 敬語 | 方向 | 意味 |
|---|---|---|
| 聞こえける(少納言統理と) | 作者 → 統理 | 少納言統理と申し上げた |
| 詣でけり | 作者 → 関白 | 参上した |
| 聞こえむ(案内聞こえむ) | 統理 → 関白 | 取り次ぎをお願い申し上げよう |
| まうし入る | 作者 → 関白 | 取り次いで申し上げる |
| まかり(まかりこもる) | 作者 → 関白 | 退出して山里にこもる |
| まうせし | 作者 → 関白 | お暇を申し上げた |
| 拝したてまつりて | 作者 → 関白 | 拝礼申し上げて |
| まうしける(三条院、東宮と) | 作者 → 三条院 | 東宮と申し上げた |
| 仕へたてまつりし | 作者 → 東宮 | お仕え申し上げた |
| たてまつれりける | 作者 → 東宮 | 和歌をお贈りした |
| たまはりける | 作者 → 東宮 | 返歌をいただいた |
| たまはりたらん | 僧賀聖 → 東宮 | 和歌をいただいたとしても |
丁寧語
| 敬語 | 方向 | 意味 |
|---|---|---|
| 生みはべる | 統理 → 僧賀聖 | 産みます |
| はべる(女のはべるが) | 統理 → 僧賀聖 | 妻がおりますが |
| 思ひ捨てはべれど | 統理 → 僧賀聖 | 思いを断ち切りましたけれども |
「少納言統理、遁世の事」の現代語訳
「少納言統理、遁世の事」の原文と現代語訳、語釈については、発心集「少納言統理、遁世の事」原文・現代語訳をご覧ください。



