『紫式部日記』の「ことわりの時雨の空は」は、時雨に曇る空を見ながら、紫式部が物思いに沈む場面です。
友人である小少将の君への返事を書いているうちに、空はさっと暗くなり、時雨が降り出します。
紫式部は、揺れる空模様に自分の心を重ね合わせながら和歌を詠み、涙に濡れる袖の思いを歌に込めました。
本記事では、「ことわりの時雨の空は」の現代語訳・原文・語釈とともに、和歌に表れた紫式部の繊細な感情について解説します。

紫式部日記「ことわりの時雨の空は」の現代語訳
小少将の君(紫式部の同僚の友人)から来た手紙の返事を書いているうちに、時雨がさっと空を暗く染めたので、使いの者も急いでいる。
「空の気色も私と同じで、心が騒いでいるようだ」
と言って、下手な歌なんかを書きちらしたのだろう。
暗くなった頃に、もう一度、しっかりとぼかし染めした濃い紫色の紙に、
雲間なくながむる空もかき暗しいかにしのぶる時雨なるらむ
心はすき間なく雲り、ぼんやり見ていた空も暗くなります。いかにして耐え忍んでいたのでしょう、時雨を降らせるのを。
さきに書き連ねたことも忘れて、
ことわりの時雨の空は雲間あれどながむる袖ぞ乾く間もなき
この季節には当たり前の時雨の空には、雲の絶え間もありますが、それをぼんやりと眺めている私の袖は、乾く間もなく涙に濡れています。
紫式部日記「ことわりの時雨の空は」の原文
小少将の君の文おこせたまへる返りごと書くに、時雨のさとかき暗せば、使も急ぐ。
「また空のけしきもうち騒ぎてなむ」
とて、腰折れたることや書き混ぜたりけむ。
暗うなりにたるに、立ち返り、いたう霞めたる濃染紙に、
雲間なくながむる空もかき暗しいかにしのぶる時雨なるらむ
書きつらむこともおぼえず、
ことわりの時雨の空は雲間あれどながむる袖ぞ乾く間もなき
紫式部日記「ことわりの時雨の空は」の語釈
- 小少将の君:彰子中宮に仕えていた女房で、紫式部の親友。
- 時雨:晩秋から初冬にかけて断続的に降る通り雨。
- 腰折れたること:和歌の第三句(腰の句)と第四句のつながりが悪い歌、転じて、下手な歌を「腰折れ歌」という。
- 立ち返り:繰り返し。ふたたび。
- いたう霞めたる濃染紙:濃染紙は、濃い紫色の紙。時雨の空に合わせて、文字がはっきり見えないぼかし染めを施した紙。


