中国唐代の詩人、白居易(白楽天)によって作られた『長恨歌』は、玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードを歌った漢詩です。
白居易の代表作の一つであり、日本の文学にも大きな影響を与えました。
紫式部も影響を受けた作家の一人で、『源氏物語』の「桐壺」の帖は、『長恨歌』のストーリーや表現がふんだんに取り入れられています。
このページでは、『長恨歌』の漢文・書き下し文・現代語訳の全文を掲載いたします。
『源氏物語』をはじめとする日本の古典文学をより面白く読むためにも、『長恨歌』の内容を知っておいてまったく損はありません。
現代語訳は全文で約2,600文字ですので、5分ほどで読めるかと思います。
ぜひ現代語訳だけでも読んでいただけると嬉しいです♪
ご興味のある方はぜひ原文も読んでみてください。
書き下し文にはルビを、漢文にはピンインを振りました。
漢詩はやはり、中国語で音読するのが非常に味わい深いです。
中国語をちょっとでもかじったことのある方は、ぜひ『長恨歌』の音読にも挑戦してみてくださいね♪
ユクカモ予も漢語を学び直したいかも♪
白居易『長恨歌』とは?
『長恨歌』が作られたのは元和元(806)年。
安史の乱により楊貴妃が命を落とした日、天宝15載6月14日(756年7月15日)から半世紀が経った年です。
安史の乱とは安禄山と史思明による反乱(両名の性をとって安史の乱)で、7年以上にもわたって続く大規模な戦争となりました。
一説によると、唐の人口の3分の2にあたる3,600万人が死亡したといわれています。
その一因となったのは、楊貴妃に対する玄宗皇帝の度を越えた寵愛。
楊貴妃を連れて蜀へと敗走する途上、馬嵬の地で護衛の兵士たちに楊貴妃の殺害を求められた玄宗皇帝は、その要求を受け入れざるを得ませんでした。
それから50年後の元和元(806)年、35歳で制科に合格した白居易は、馬嵬に近い盩厔県に赴任しました。
陳鴻、王質夫と3人で仙遊寺に集い、馬嵬で亡くなった楊貴妃について語り合ったことから『長恨歌』を作詩したそうです。
大勢の人々が犠牲になり、唐王朝が傾くきっかけとなった安史の乱、そして玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードは、半世紀を経てもなお鮮明に語り継がれていたのでしょう。
『長恨歌』はあくまで物語という体で作られており、玄宗皇帝と楊貴妃の名前はぼかされていますが、前半部分はほとんど史実に基づいています。
後半部分は道士が貴妃の魂を探すというファンタジーとなっており、のちの文学や戯曲に多大な影響を与えました。
『源氏物語』もその一つで、桐壺帝と桐壺更衣のエピソードには『長恨歌』がベースにあります。
漢詩としては長編の作品ですが、全文を読むのにそれほどの時間はかかりません。
内容もわかりやすいので、読みやすいかと思います。
ぜひ現代語訳だけでも目を通していただけると嬉しいです♪



ルビとピンインを振った原文も読んでみるといいかも♪
白居易『長恨歌』原文と現代語訳
漢の皇帝と楊家の娘
原文と書き下し文
長 恨 歌
漢 皇 重 色 思 傾 国
御 宇 多 年 求 不 得
楊 家 有 女 初 長 成
養 在 深 閨 人 未 識
天 生 麗 質 難 自 棄
一 朝 選 在 君 王 側
迴 眸 一 笑 百 媚 生
六 宮 粉 黛 無 顔 色
春 寒 賜 浴 華 清 池
温 泉 水 滑 洗 凝 脂
侍 児 扶 起 嬌 無 力
始 是 新 承 恩 澤 時
雲 鬢 花 顔 金 歩 揺
芙 蓉 帳 暖 度 春 宵
春 宵 苦 短 日 高 起
従 此 君 王 不 早 朝
承 歓 侍 宴 無 閑 暇
春 従 春 遊 夜 専 夜
後 宮 佳 麗 三 千 人
三 千 寵 愛 在 一 身
金 屋 粧 成 嬌 侍 夜
玉 楼 宴 罷 酔 和 春
姉 妹 弟 兄 皆 列 土
可 怜 光 彩 生 門 戸
遂 令 天 下 父 母 心
不 重 生 男 重 生 女
長恨歌
漢皇色を重んじて傾国を思う
御宇多年求むれども得ず
楊家に女有り初めて長成す
養われて深閨に在れば人未だ識らず
天生の麗質は自ら棄て難く
一朝に選ばれて君王の側に在り
眸を迴らして一たび笑えば百の媚生じ
六宮の粉黛は顔色無し
春寒くして浴を賜う華清の池
温泉水滑らかにして凝脂を洗う
侍児扶け起こすも嬌として力無し
始めて是れ新たに恩沢を承けし時なり
雲鬢花顔金歩揺
芙蓉の帳は暖かくして春宵を度る
春宵苦だ短くて日高くして起く
此れ従り君王早朝せず
歓を承け宴に侍して閑暇無し
春は春の遊びに従い夜は夜を専らにす
後宮の佳麗三千人
三千の寵愛一身に在り
金屋粧い成りて嬌として夜に侍し
玉楼宴罷みて酔ひて春に和す
姉妹弟兄皆な土に列す
憐む可し光彩門戸に生ず
遂に天下の父母の心をして
男を生むを重んぜず女を生むを重んぜしむ
現代語訳
漢の皇帝は女色を重んじて、国を傾けるほどの美女を望んでいた。しかし御治世の多年、どれだけ探し求めても得られなかった。
楊家に娘あり、成人したばかりである。奥の部屋で大切に育てられていたため、人はまだ誰も知らない。天生の麗しい素質はおのずから捨てがたく、一朝に選ばれて君王のそばに仕える身となった。瞳をめぐらせて一たび微笑めば、百の愛嬌が生まれる。六宮の華やかに装う美女たちも、色気を無くしてしまう。
春はまだ寒くして、湯浴を賜わる華清の池。温泉の水はなめらかで、つややかな白い肌を洗う。侍女が支え起こすも、なまめかしく力なくゆらめく。初めてこれ新たに、帝の寵愛を承った時であった。雲のように豊かなびん髪、花のように美しい顔つき、歩けば揺れる金の髪飾り。芙蓉のとばりは暖かく、春の宵を過ごす。春の宵は苦しいほどに短くて、日が高くなってようやく起きた。これより君王、早朝のまつりごとを怠る。


娥眉馬前に死す
漢文
驪 宮 高 処 入 青 雲
仙 楽 風 飄 処 処 聞
緩 歌 慢 舞 凝 糸 竹
尽 日 君 王 看 不 足
漁 陽 鼙 鼓 動 地 来
驚 破 霓 裳 羽 衣 曲
九 重 城 闕 煙 塵 生
千 乗 万 騎 西 南 行
翠 華 揺 揺 行 復 止
西 出 都 門 百 余 里
六 軍 不 発 無 奈 何
宛 転 娥 眉 馬 前 死
花 鈿 委 地 無 人 收
翠 翹 金 雀 玉 搔 頭
君 王 掩 面 救 不 得
迴 看 血 涙 相 和 流
黄 埃 散 漫 風 蕭 索
雲 桟 縈 紆 登 剣 閣
峨 嵋 山 下 少 人 行
旌 旗 無 光 日 色 薄
蜀 江 水 碧 蜀 山 青
聖 主 朝 朝 暮 暮 情
行 宮 見 月 傷 心 色
夜 雨 聞 鈴 腸 断 声
書き下し文
驪宮高き処青雲に入る
仙楽風に飄りて処処に聞こゆ
緩歌縵舞糸竹を凝らし
尽日君王看れども足りず
漁陽の鼙鼓地を動かして来たり
驚破す霓裳羽衣の曲
九重の城闕煙塵生じ
千乗万騎西南に行く
翠華揺揺として行きて復た止まる
西のかた都門を出でて百余里
六軍発せず奈何ともする無く
宛転たる娥眉馬前に死す
花鈿地に委ねられて人の収むる無し
翠翹金雀玉搔頭
君王面を掩いて救い得ず
迴り看れば血涙相い和して流る
黄埃散漫として風蕭索たり
雲桟縈紆して剣閣に登る
峨嵋山下人の行くこと少なく
旌旗光無く日色薄し
蜀江水碧にして蜀山青し
聖主朝朝暮暮の情
行宮に月を見れば傷心の色
夜雨に鈴を聞けば腸の断たれる声
現代語訳
驪宮は高いところ、青雲に入る。仙楽の音は風に乗り、あちらこちらで聞こえる。緩やかに歌い、ゆったりと舞い、管絃の音を情緒たっぷりに奏でて、一日を尽くしても君王は飽き足らない。
漁陽の攻め太鼓が、大地をとどろかせて来た。驚き破られる霓裳羽衣の曲。九つ重なる城門には煙と塵が立ち昇り、一千の馬車と一万の騎兵が西南へ逃げ行く。
翠華の御旗はゆらゆらと迷い、進んではまた止まる。都の門を西へ出て百里余り、六軍は出発せず、いかんともできない。みやびな眉の美しい人は、馬嵬の地を前に死す。花のかんざしは地にうち捨てられて、拾おうとする人はいない。かわせみの髪飾りも、金雀のかんざしも、宝玉のくしも。君王は玉顔を覆うばかりで、救おうにも救えない。振り返って見れば、血と涙が相混じって流れていた。
黄色い砂埃は散漫として風にわびしく舞い上がり、雲上の桟橋を絶壁にまといつくようにして剣閣山を登る。峨嵋山のふもとは人の往来も少なく、色あざやかな御旗は山影で光なく、日差しの色も薄い。蜀江の水は碧緑に澄み、蜀山は青々と美しい。聖主は朝朝暮暮、亡き人への慕情に沈む。行宮から月を見れば、傷心の顔色を浮かべ、雨の夜に鈴の音を聞けば、断腸の声を上げる。


太液芙蓉、未央柳
漢文
天 旋 地 転 迴 龍 馭
到 此 躊 躇 不 能 去
馬 嵬 坡 下 泥 土 中
不 見 玉 顔 空 死 処
君 臣 相 顧 尽 霑 衣
東 望 都 門 信 馬 帰
帰 来 池 苑 皆 依 旧
太 液 芙 蓉 未 央 柳
芙 蓉 如 面 柳 如 眉
対 此 如 何 不 涙 垂
春 風 桃 李 花 開 日
秋 雨 梧 桐 叶 落 時
西 宮 南 苑 多 秋 草
落 叶 満 階 紅 不 掃
梨 園 弟 子 白 髪 新
椒 房 阿 監 青 娥 老
夕 殿 蛍 飛 思 悄 然
孤 灯 挑 尽 未 成 眠
遅 遅 鐘 鼓 初 長 夜
耿 耿 星 河 欲 曙 天
鴛 鴦 瓦 冷 霜 華 重
翡 翠 衾 寒 誰 与 共
悠 悠 生 死 別 経 年
魂 魄 不 曾 来 入 夢
臨 邛 道 士 鴻 都 客
能 以 精 誠 致 魂 魄
為 感 君 王 展 転 思
遂 教 方 士 殷 勤 覓
排 空 馭 気 奔 如 電
昇 天 入 地 求 之 遍
上 窮 碧 落 下 黄 泉
両 処 茫 茫 皆 不 見
書き下し文
天旋り地転じて龍馭を迴らし
此に到りて躊躇して去ること能わず
馬嵬坡の下泥土の中
玉顔を見ず空しく死せる処
君臣相い顧みて尽く衣を霑す
東のかた都門を望みて馬に信せて帰る
帰り来たれば池苑皆な旧に依る
太液の芙蓉未央の柳
芙蓉は面の如く柳は眉の如し
此れに対して如何ぞ涙垂れざらん
春風桃李花開く日
秋雨梧桐葉落つる時
西宮南苑秋草多く
落葉階に満ちて紅を掃わず
梨園の弟子白髪新たに
椒房の阿監青娥老ゆ
夕殿に蛍飛びて思い悄然たり
孤灯挑げ尽すも未だ眠りを成さず
遅遅たる鐘鼓初めて長き夜
耿耿たる星河曙けんと欲する天
鴛鴦瓦は冷ややかにして霜華は重く
翡翠の衾は寒くして誰とか共にせん
悠悠たる生死別れて年を経たり
魂魄曾て来たりて夢に入らず
臨邛の道士鴻都の客
能く精誠を以て魂魄を致す
君王の展転の思いに感ずるが為に
遂に方士をして殷勤に覓めしむ
空を排し気を馭して奔ること電の如し
天に昇り地に入りて之を求むること遍し
上は碧落を窮め下は黄泉
両処茫茫として皆な見えず
現代語訳
天はめぐり、地は転じて、龍の御車を都へと引き返す。この地に至ると歩みを躊躇して、立ち去ることができない。馬嵬の坂道の下、泥土の中、玉顔を見ず、空しく死んだところ。君臣たちも互いに回顧して、ことごとく衣を潤す。東に都の門を望み、馬に身を任せて帰る。
都に帰り着くと、宮殿の御池も御苑もみな依然として残っている。太液池の芙蓉も、未央宮の柳も。芙蓉は亡き人の顔のごとく、柳は眉のごとし。これに対して、どうして涙が垂れないことがあろうか。春の風に桃李の花が開く日も、秋の雨に梧桐の葉が落ちる時も。西の御殿も南の御苑も秋の草が多く茂り、落ち葉はきざはしに満ちて紅を掃き清めない。梨園の芸妓は白髪が新たに、椒房の女官は青々と描いた眉が老いを引き立たせる。
夕暮れの宮殿に蛍が飛び交い、憂いの思いにうち沈んでいる。孤灯の明かりをともし尽くすも、いまだ眠りを成さない。遅々と鳴り響く鐘鼓が告げる、秋の夜長の始まり。白々と消えゆく星の運河に、明けんと欲する天の空。鴛鴦瓦は冷ややかで、霜花は重い。翡翠のしとねは寒くして、誰と共にしようか。悠々たる生死、別れて年を経た。亡き人の魂はいまだかつて来たことがなく、夢に現れてくれない。
臨邛の道士、鴻都の客。精神誠意の力をもってして、死者の魂とつながることができる者である。君王の夜も眠れぬ思いに共感するがために、ついに仙術をして入念に探し求めさせた。空をしりぞけ、大気を駆けて走るさまは稲妻のごとし。天に昇っては地に潜り、くまなくこれを求め、上は碧天の彼方まで達し、下は黄泉の国まで。どちらも果てしなく広がるばかりで何も見えない。


此恨綿綿無絶期
漢文
忽 聞 海 上 有 仙 山
山 在 虚 無 縹 緲 間
楼 閣 玲 瓏 五 雲 起
其 中 綽 約 多 仙 子
中 有 一 人 字 太 真
雪 膚 花 貌 参 差 是
金 闕 西 廂 叩 玉 扃
転 教 小 玉 報 双 成
聞 道 漢 家 天 子 使
九 華 帳 裏 夢 魂 驚
攬 衣 推 枕 起 徘 徊
珠 箔 銀 屏 邐 迤 開
雲 鬢 半 偏 新 睡 覚
花 冠 不 整 下 堂 来
風 吹 仙 袂 飄 颻 挙
猶 似 霓 裳 羽 衣 舞
玉 容 寂 寞 涙 闌 干
梨 花 一 枝 春 帯 雨
含 情 凝 睇 謝 君 王
一 別 音 容 両 眇 茫
昭 陽 殿 裏 恩 愛 絶
蓬 萊 宮 中 日 月 長
迴 頭 下 望 人 寰 処
不 見 長 安 見 塵 霧
唯 将 旧 物 表 深 情
鈿 合 金 釵 寄 将 去
釵 留 一 股 合 一 扇
釵 擘 黄 金 合 分 鈿
但 教 心 似 金 鈿 堅
天 上 人 間 会 相 見
臨 別 殷 勤 重 寄 詞
詞 中 有 誓 両 心 知
七 月 七 日 長 生 殿
夜 半 無 人 私 語 時
在 天 願 作 比 翼 鳥
在 地 願 為 連 理 枝
天 長 地 久 有 時 尽
此 恨 綿 綿 無 絶 期
書き下し文
忽ち聞く海上に仙山有りと
山は虚無縹緲の間に在り
楼閣玲瓏として五雲起こり
其の中に綽約として仙子多し
中に一人有り字は太真
雪の膚花の貌参差として是れなり
金闕の西廂に玉扃を叩き
転じて小玉をして双成に報ぜしむ
聞道く漢家の天子の使いと
九華の帳裏夢魂驚く
衣を攬り枕を推し起ちて徘徊す
珠箔銀屛邐迤として開く
雲鬢半ば偏れて新たに睡り覚む
花冠整えず堂を下りて来たる
風は仙袂を吹きて飄颻として挙がる
猶ほ似たり霓裳羽衣の舞
玉容寂寞として涙闌干たり
梨花一枝春雨を帯ぶ
情を含み睇を凝らして君王に謝す
一たび別れしより音容両つながら眇茫たり
昭陽殿裏恩愛絶え
蓬萊宮中日月長し
頭を迴らして人寰の処を下に望めば
長安は見えず塵霧を見る
唯だ旧物を将て深情を表さん
鈿合金釵寄せ将ち去らしむ
釵は一股を留めて合は一扇
釵は黄金を擘き合は鈿を分かつ
但だ心をして金鈿の堅きに似せしむれば
天上人間会ず相い見えんと
別れに臨んで殷勤に重ねて詞を寄す
詞の中に誓い有り両心のみ知る
七月七日長生殿
夜半人無く私語の時
天に在りては願わくは比翼の鳥と作り
地に在りては願わくは連理の枝と為らんと
天長く地久しきも時有りて尽きん
此の恨み綿綿として絶える期無からん
現代語訳
たちまちに聞く、海上に仙女が住む山があると。山は虚無に霞んだ空間にあり、楼閣は宝石のように透明な輝きをまとい、五色の雲が立ちこめている。その中に、しなやかで美しい仙女多し。中に一人あり、字は太真。雪のように白い肌、華やかな容貌、ほとんど差がなくまさにこの方である。黄金の門をくぐり、西の廂へ進み、玉の扉をたたくと、小玉に取り次がせて双成へと知らせる。漢家の天子の使いであると聞くと、九華の花模様のとばりの中で夢を見ていた魂が、驚いて目を覚ます。
衣を手に取り、枕を押すようにして起き上がると、とまどい足踏みする。心珠のすだれ、銀の屏風がするすると開く。雲のように豊かな髪は一方に偏り、新たに眠りから覚めたばかりの姿で、花冠も整えずに堂を下りて来た。風が仙女のたもとを吹き上げて、ひらひらと舞い上がる。まさに似ている、霓裳羽衣の舞に。玉のような顔つきは寂寞として、涙がはらはらと流れ落ちる。梨の花の一枝が、春の雨を帯びるように。
情を含めて、ひとみを凝らして道士を見つめ、君王への感謝の言葉を告げる。
「一たびお別れしてから、御声も御姿も両方ともぼんやりとしていました。昭陽殿の中で賜った恩愛は絶えて、蓬萊宮の中で過ごす年月は長く感じられます。頭をめぐらせて人の世を下に眺めれば、長安は見えず、塵の霧が見えるばかりです。ただ、形見の遺品を頼りに、深い愛情を表したく存じます。螺鈿の小箱と、金のかんざしをお持ち帰りください。かんざしは一本を手元に留めて、小箱は一箱を。かんざしは黄金を割き、小箱は螺鈿を分けて、ただ二人の心を黄金と螺鈿のように堅く契れば、天上界でも人間界でも必ず、お互いに相いまみえるでしょう」
別れに臨んで、ねんごろに重ねて詞を寄せる。詞の中に誓いあり、それは二人の心のみ知ること。七月七日、長生殿、夜半に人はなく、ささやき声で語る時。
「天にあっては、願わくは比翼の鳥となり、地にあっては、願わくは連理の枝となりましょう」
天は長く、地は悠久であるも、時は有限であり、いつかは尽きる。この悲しみは綿々と続き、絶えることはないだろう。


【全文】白居易『長恨歌』現代語訳
漢の皇帝は女色を重んじて、国を傾けるほどの美女を望んでいた。しかし御治世の多年、どれだけ探し求めても得られなかった。
楊家に娘あり、成人したばかりである。奥の部屋で大切に育てられていたため、人はまだ誰も知らない。天生の麗しい素質はおのずから捨てがたく、一朝に選ばれて君王のそばに仕える身となった。瞳をめぐらせて一たび微笑めば、百の愛嬌が生まれる。六宮の華やかに装う美女たちも、色気を無くしてしまう。
春はまだ寒くして、湯浴を賜わる華清の池。温泉の水はなめらかで、つややかな白い肌を洗う。侍女が支え起こすも、なまめかしく力なくゆらめく。初めてこれ新たに、帝の寵愛を承った時であった。雲のように豊かなびん髪、花のように美しい顔つき、歩けば揺れる金の髪飾り。芙蓉のとばりは暖かく、春の宵を過ごす。春の宵は苦しいほどに短くて、日が高くなってようやく起きた。これより君王、早朝のまつりごとを怠る。
帝の歓心を承り、宴席にもそばでお仕えして閑暇なし。春は春の御遊びに付き従い、夜は夜のお供を専らに付き添う。後宮の華麗な美女たち三千人、三千の寵愛が一身にあり。金の御殿ではおめかしして艶やかに夜を興じ、玉の楼殿では宴を抜け出して酔いと春の気に調和する。
姉妹兄弟みな領土を賜り、誰もがうらやむ光彩なる一門が誕生した。ついに天下の父母の心は、男子を生むことを重んぜず、女子を生むことを重んずるようになった。
驪宮は高いところ、青雲に入る。仙楽の音は風に乗り、あちらこちらで聞こえる。緩やかに歌い、ゆったりと舞い、管絃の音を情緒たっぷりに奏でて、一日を尽くしても君王は飽き足らない。
漁陽の攻め太鼓が、大地をとどろかせて来た。驚き破られる霓裳羽衣の曲。九つ重なる城門には煙と塵が立ち昇り、一千の馬車と一万の騎兵が西南へ逃げ行く。
翠華の御旗はゆらゆらと迷い、進んではまた止まる。都の門を西へ出て百里余り、六軍は出発せず、いかんともできない。みやびな眉の美しい人は、馬嵬の地を前に死す。花のかんざしは地にうち捨てられて、拾おうとする人はいない。かわせみの髪飾りも、金雀のかんざしも、宝玉のくしも。君王は玉顔を覆うばかりで、救おうにも救えない。振り返って見れば、血と涙が相混じって流れていた。
黄色い砂埃は散漫として風にわびしく舞い上がり、雲上の桟橋を絶壁にまといつくようにして剣閣山を登る。峨嵋山のふもとは人の往来も少なく、色あざやかな御旗は山影で光なく、日差しの色も薄い。蜀江の水は碧緑に澄み、蜀山は青々と美しい。聖主は朝朝暮暮、亡き人への慕情に沈む。行宮から月を見れば、傷心の顔色を浮かべ、雨の夜に鈴の音を聞けば、断腸の声を上げる。
天はめぐり、地は転じて、龍の御車を都へと引き返す。この地に至ると歩みを躊躇して、立ち去ることができない。馬嵬の坂道の下、泥土の中、玉顔を見ず、空しく死んだところ。君臣たちも互いに回顧して、ことごとく衣を潤す。東に都の門を望み、馬に身を任せて帰る。
都に帰り着くと、宮殿の御池も御苑もみな依然として残っている。太液池の芙蓉も、未央宮の柳も。芙蓉は亡き人の顔のごとく、柳は眉のごとし。これに対して、どうして涙が垂れないことがあろうか。春の風に桃李の花が開く日も、秋の雨に梧桐の葉が落ちる時も。西の御殿も南の御苑も秋の草が多く茂り、落ち葉はきざはしに満ちて紅を掃き清めない。梨園の芸妓は白髪が新たに、椒房の女官は青々と描いた眉が老いを引き立たせる。
夕暮れの宮殿に蛍が飛び交い、憂いの思いにうち沈んでいる。孤灯の明かりをともし尽くすも、いまだ眠りを成さない。遅々と鳴り響く鐘鼓が告げる、秋の夜長の始まり。白々と消えゆく星の運河に、明けんと欲する天の空。鴛鴦瓦は冷ややかで、霜花は重い。翡翠のしとねは寒くして、誰と共にしようか。悠々たる生死、別れて年を経た。亡き人の魂はいまだかつて来たことがなく、夢に現れてくれない。
臨邛の道士、鴻都の客。精神誠意の力をもってして、死者の魂とつながることができる者である。君王の夜も眠れぬ思いに共感するがために、ついに仙術をして入念に探し求めさせた。空をしりぞけ、大気を駆けて走るさまは稲妻のごとし。天に昇っては地に潜り、くまなくこれを求め、上は碧天の彼方まで達し、下は黄泉の国まで。どちらも果てしなく広がるばかりで何も見えない。
たちまちに聞く、海上に仙女が住む山があると。山は虚無に霞んだ空間にあり、楼閣は宝石のように透明な輝きをまとい、五色の雲が立ちこめている。その中に、しなやかで美しい仙女多し。中に一人あり、字は太真。雪のように白い肌、華やかな容貌、ほとんど差がなくまさにこの方である。黄金の門をくぐり、西の廂へ進み、玉の扉をたたくと、小玉に取り次がせて双成へと知らせる。漢家の天子の使いであると聞くと、九華の花模様のとばりの中で夢を見ていた魂が、驚いて目を覚ます。
衣を手に取り、枕を押すようにして起き上がると、とまどい足踏みする。心珠のすだれ、銀の屏風がするすると開く。雲のように豊かな髪は一方に偏り、新たに眠りから覚めたばかりの姿で、花冠も整えずに堂を下りて来た。風が仙女のたもとを吹き上げて、ひらひらと舞い上がる。まさに似ている、霓裳羽衣の舞に。玉のような顔つきは寂寞として、涙がはらはらと流れ落ちる。梨の花の一枝が、春の雨を帯びるように。
情を含めて、ひとみを凝らして道士を見つめ、君王への感謝の言葉を告げる。
「一たびお別れしてから、御声も御姿も両方ともぼんやりとしていました。昭陽殿の中で賜った恩愛は絶えて、蓬萊宮の中で過ごす年月は長く感じられます。頭をめぐらせて人の世を下に眺めれば、長安は見えず、塵の霧が見えるばかりです。ただ、形見の遺品を頼りに、深い愛情を表したく存じます。螺鈿の小箱と、金のかんざしをお持ち帰りください。かんざしは一本を手元に留めて、小箱は一箱を。かんざしは黄金を割き、小箱は螺鈿を分けて、ただ二人の心を黄金と螺鈿のように堅く契れば、天上界でも人間界でも必ず、お互いに相いまみえるでしょう」
別れに臨んで、ねんごろに重ねて詞を寄せる。詞の中に誓いあり、それは二人の心のみ知ること。七月七日、長生殿、夜半に人はなく、ささやき声で語る時。
「天にあっては、願わくは比翼の鳥となり、地にあっては、願わくは連理の枝となりましょう」
天は長く、地は悠久であるも、時は有限であり、いつかは尽きる。この悲しみは綿々と続き、絶えることはないだろう。
【全文】白居易『長恨歌』の原文と書き下し文
| 長 恨 歌 | 長恨歌 |
| 漢 皇 重 色 思 傾 国 | 漢皇色を重んじて傾国を思う |
| 御 宇 多 年 求 不 得 | 御宇多年求むれども得ず |
| 楊 家 有 女 初 長 成 | 楊家に女有り初めて長成す |
| 養 在 深 閨 人 未 識 | 養われて深閨に在れば人未だ識らず |
| 天 生 麗 質 難 自 棄 | 天生の麗質は自ら棄て難く |
| 一 朝 選 在 君 王 側 | 一朝に選ばれて君王の側に在り |
| 迴 眸 一 笑 百 媚 生 | 眸を迴らして一たび笑えば百の媚生じ |
| 六 宮 粉 黛 無 顔 色 | 六宮の粉黛は顔色無し |
| 春 寒 賜 浴 華 清 池 | 春寒くして浴を賜わる華清の池 |
| 温 泉 水 滑 洗 凝 脂 | 温泉水滑らかにして凝脂を洗う |
| 侍 児 扶 起 嬌 無 力 | 侍児扶け起こすも嬌として力無し |
| 始 是 新 承 恩 澤 時 | 始めて是れ新たに恩沢を承けし時なり |
| 雲 鬢 花 顔 金 歩 揺 | 雲鬢花顔金歩揺 |
| 芙 蓉 帳 暖 度 春 宵 | 芙蓉の帳は暖かくして春宵を度る |
| 春 宵 苦 短 日 高 起 | 春宵苦だ短くて日高くして起く |
| 従 此 君 王 不 早 朝 | 此れ従り君王早朝せず |
| 承 歓 侍 宴 無 閑 暇 | 歓を承け宴に侍して閑暇無し |
| 春 従 春 遊 夜 専 夜 | 春は春の遊びに従い夜は夜を専らにす |
| 後 宮 佳 麗 三 千 人 | 後宮の佳麗三千人 |
| 三 千 寵 愛 在 一 身 | 三千の寵愛一身に在り |
| 金 屋 粧 成 嬌 侍 夜 | 金屋粧い成りて嬌として夜に侍し |
| 玉 楼 宴 罷 酔 和 春 | 玉楼宴罷みて酔ひて春に和す |
| 姉 妹 弟 兄 皆 列 土 | 姉妹弟兄皆な土に列す |
| 可 憐 光 彩 生 門 戸 | 憐む可し光彩門戸に生ず |
| 遂 令 天 下 父 母 心 | 遂に天下の父母の心をして |
| 不 重 生 男 重 生 女 | 男を生むを重んぜず女を生むを重んぜしむ |


| 驪 宮 高 処 入 青 雲 | 驪宮高き処青雲に入る |
| 仙 楽 風 飄 処 処 聞 | 仙楽風に飄りて処処に聞こゆ |
| 緩 歌 慢 舞 凝 糸 竹 | 緩歌縵舞糸竹を凝らし |
| 尽 日 君 王 看 不 足 | 尽日君王看れども足りず |
| 漁 陽 鼙 鼓 動 地 来 | 漁陽の鼙鼓地を動かして来たり |
| 驚 破 霓 裳 羽 衣 曲 | 驚破す霓裳羽衣の曲 |
| 九 重 城 闕 煙 塵 生 | 九重の城闕に煙塵生じ |
| 千 乗 万 騎 西 南 行 | 千乗万騎西南に行く |
| 翠 華 揺 揺 行 復 止 | 翠華揺揺として行きて復た止まる |
| 西 出 都 門 百 余 里 | 西のかた都門を出でて百余里 |
| 六 軍 不 発 無 奈 何 | 六軍発せず奈何ともする無く |
| 宛 転 娥 眉 馬 前 死 | 宛転たる娥眉馬前に死す |
| 花 鈿 委 地 無 人 收 | 花鈿地に委ねられて人の収むる無し |
| 翠 翹 金 雀 玉 搔 頭 | 翠翹金雀玉搔頭 |
| 君 王 掩 面 救 不 得 | 君王面を掩いて救い得ず |
| 迴 看 血 涙 相 和 流 | 迴り看れば血涙相い和して流る |
| 黄 埃 散 漫 風 蕭 索 | 黄埃散漫として風蕭索たり |
| 雲 桟 縈 紆 登 剣 閣 | 雲桟縈紆して剣閣に登る |
| 峨 嵋 山 下 少 人 行 | 峨嵋山下人の行くこと少なく |
| 旌 旗 無 光 日 色 薄 | 旌旗光無く日色薄し |
| 蜀 江 水 碧 蜀 山 青 | 蜀江水碧にして蜀山青し |
| 聖 主 朝 朝 暮 暮 情 | 聖主朝朝暮暮の情 |
| 行 宮 見 月 傷 心 色 | 行宮に月を見れば傷心の色 |
| 夜 雨 聞 鈴 腸 断 声 | 夜雨に鈴を聞けば腸の断たれる声 |


| 天 旋 地 転 迴 龍 馭 | 天旋り地転じて龍馭を迴らし |
| 到 此 躊 躇 不 能 去 | 此に到りて躊躇して去ること能わず |
| 馬 嵬 坡 下 泥 土 中 | 馬嵬坡の下泥土の中 |
| 不 見 玉 顔 空 死 処 | 玉顔を見ず空しく死せる処 |
| 君 臣 相 顧 尽 霑 衣 | 君臣相い顧みて尽く衣を霑す |
| 東 望 都 門 信 馬 帰 | 東のかた都門を望みて馬に信せて帰る |
| 帰 来 池 苑 皆 依 旧 | 帰り来たれば池苑皆な旧に依る |
| 太 液 芙 蓉 未 央 柳 | 太液の芙蓉未央の柳 |
| 芙 蓉 如 面 柳 如 眉 | 芙蓉は面の如く柳は眉の如し |
| 対 此 如 何 不 涙 垂 | 此れに対して如何ぞ涙垂れざらん |
| 春 風 桃 李 花 開 日 | 春風桃李花開く日 |
| 秋 雨 梧 桐 叶 落 時 | 秋雨梧桐葉落つる時 |
| 西 宮 南 苑 多 秋 草 | 西宮南苑秋草多く |
| 落 叶 満 階 紅 不 掃 | 落葉階に満ちて紅を掃わず |
| 梨 園 弟 子 白 髪 新 | 梨園の弟子白髪新たに |
| 椒 房 阿 監 青 娥 老 | 椒房の阿監青娥老ゆ |
| 夕 殿 蛍 飛 思 悄 然 | 夕殿に蛍飛びて思い悄然たり |
| 孤 灯 挑 尽 未 成 眠 | 孤灯挑げ尽すも未だ眠りを成さず |
| 遅 遅 鐘 鼓 初 長 夜 | 遅遅たる鐘鼓初めて長き夜 |
| 耿 耿 星 河 欲 曙 天 | 耿耿たる星河曙けんと欲する天 |
| 鴛 鴦 瓦 冷 霜 華 重 | 鴛鴦瓦は冷ややかにして霜華は重く |
| 翡 翠 衾 寒 誰 与 共 | 翡翠の衾は寒くして誰とか共にせん |
| 悠 悠 生 死 別 経 年 | 悠悠たる生死別れて年を経たり |
| 魂 魄 不 曾 来 入 夢 | 魂魄曾て来たりて夢に入らず |
| 臨 邛 道 士 鴻 都 客 | 臨邛の道士鴻都の客 |
| 能 以 精 誠 致 魂 魄 | 能く精誠を以て魂魄を致す |
| 為 感 君 王 展 転 思 | 君王の展転の思いに感ずるが為に |
| 遂 教 方 士 殷 勤 覓 | 遂に方士をして殷勤に覓めしむ |
| 排 空 馭 気 奔 如 電 | 空を排し気を馭して奔ること電の如し |
| 昇 天 入 地 求 之 遍 | 天に昇り地に入りて之を求むること遍し |
| 上 窮 碧 落 下 黄 泉 | 上は碧落を窮め下は黄泉 |
| 両 処 茫 茫 皆 不 見 | 両処茫茫として皆な見えず |


| 忽 聞 海 上 有 仙 山 | 忽ち聞く海上に仙山有りと |
| 山 在 虚 無 縹 緲 間 | 山は虚無縹緲の間に在り |
| 楼 閣 玲 瓏 五 雲 起 | 楼閣玲瓏として五雲起こり |
| 其 中 綽 約 多 仙 子 | 其の中に綽約として仙子多し |
| 中 有 一 人 字 太 真 | 中に一人有り字は太真 |
| 雪 膚 花 貌 参 差 是 | 雪の膚花の貌参差として是れなり |
| 金 闕 西 廂 叩 玉 扃 | 金闕の西廂に玉扃を叩き |
| 転 教 小 玉 報 双 成 | 転じて小玉をして双成に報ぜしむ |
| 聞 道 漢 家 天 子 使 | 聞道く漢家の天子の使いと |
| 九 華 帳 裏 夢 魂 驚 | 九華の帳裏夢魂驚く |
| 攬 衣 推 枕 起 徘 徊 | 衣を攬り枕を推し起ちて徘徊す |
| 珠 箔 銀 屏 邐 迤 開 | 珠箔銀屛邐迤として開く |
| 雲 鬢 半 偏 新 睡 覚 | 雲鬢半ば偏れて新たに睡り覚む |
| 花 冠 不 整 下 堂 来 | 花冠整えず堂を下りて来たる |
| 風 吹 仙 袂 飄 颻 挙 | 風は仙袂を吹きて飄颻として挙がる |
| 猶 似 霓 裳 羽 衣 舞 | 猶ほ似たり霓裳羽衣の舞 |
| 玉 容 寂 寞 涙 闌 干 | 玉容寂寞として涙闌干たり |
| 梨 花 一 枝 春 帯 雨 | 梨花一枝春雨を帯ぶ |
| 含 情 凝 睇 謝 君 王 | 情を含み睇を凝らして君王に謝す |
| 一 別 音 容 両 眇 茫 | 一たび別れしより音容両つながら眇茫たり |
| 昭 陽 殿 裏 恩 愛 絶 | 昭陽殿裏恩愛絶え |
| 蓬 萊 宮 中 日 月 長 | 蓬萊宮中日月長し |
| 迴 頭 下 望 人 寰 処 | 頭を迴らして人寰の処を下に望めば |
| 不 見 長 安 見 塵 霧 | 長安は見えず塵霧を見る |
| 唯 将 旧 物 表 深 情 | 唯だ旧物を将て深情を表さん |
| 鈿 合 金 釵 寄 将 去 | 鈿合金釵寄せ将ち去らしむ |
| 釵 留 一 股 合 一 扇 | 釵は一股を留めて合は一扇 |
| 釵 擘 黄 金 合 分 鈿 | 釵は黄金を擘き合は鈿を分かつ |
| 但 教 心 似 金 鈿 堅 | 但だ心をして金鈿の堅きに似せしむれば |
| 天 上 人 間 会 相 見 | 天上人間会ず相い見えんと |
| 臨 別 殷 勤 重 寄 詞 | 別れに臨んで殷勤に重ねて詞を寄す |
| 詞 中 有 誓 両 心 知 | 詞の中に誓い有り両心のみ知る |
| 七 月 七 日 長 生 殿 | 七月七日長生殿 |
| 夜 半 無 人 私 語 時 | 夜半人無く私語の時 |
| 在 天 願 作 比 翼 鳥 | 天に在りては願わくは比翼の鳥と作り |
| 在 地 願 為 連 理 枝 | 地に在りては願わくは連理の枝と為らんと |
| 天 長 地 久 有 時 尽 | 天長く地久しきも時有りて尽きん |
| 此 恨 綿 綿 無 絶 期 | 此の恨み綿綿として絶える期無からん |



