【全文】白居易『長恨歌』の原文と現代語訳(ルビ・ピンイン付き)

中国唐代の詩人、白居易(白楽天)によって作られた『長恨歌』は、玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードを歌った漢詩です。

白居易の代表作の一つであり、日本の文学にも大きな影響を与えました。

紫式部も影響を受けた作家の一人で、『源氏物語』の「桐壺」の帖は、『長恨歌』のストーリーや表現がふんだんに取り入れられています。

このページでは、『長恨歌』の漢文・書き下し文・現代語訳の全文を掲載いたします。

『源氏物語』をはじめとする日本の古典文学をより面白く読むためにも、『長恨歌』の内容を知っておいてまったく損はありません。

現代語訳は全文で約2,600文字ですので、5分ほどで読めるかと思います。

ぜひ現代語訳だけでも読んでいただけると嬉しいです♪

ご興味のある方はぜひ原文も読んでみてください。

書き下し文にはルビを、漢文にはピンインを振りました。

漢詩はやはり、中国語で音読するのが非常に味わい深いです。

中国語をちょっとでもかじったことのある方は、ぜひ『長恨歌』の音読にも挑戦してみてくださいね♪

ユクカモ

予も漢語を学び直したいかも♪

目次

白居易『長恨歌』とは?

『長恨歌』が作られたのは元和元(806)年。

安史の乱により楊貴妃が命を落とした日、天宝15載6月14日(756年7月15日)から半世紀が経った年です。

安史の乱とは安禄山と史思明による反乱(両名の性をとって安史の乱)で、7年以上にもわたって続く大規模な戦争となりました。

一説によると、唐の人口の3分の2にあたる3,600万人が死亡したといわれています。

その一因となったのは、楊貴妃に対する玄宗皇帝の度を越えた寵愛。

楊貴妃を連れて蜀へと敗走する途上、馬嵬の地で護衛の兵士たちに楊貴妃の殺害を求められた玄宗皇帝は、その要求を受け入れざるを得ませんでした。

それから50年後の元和元(806)年、35歳で制科に合格した白居易は、馬嵬に近い盩厔県に赴任しました。

陳鴻、王質夫と3人で仙遊寺に集い、馬嵬で亡くなった楊貴妃について語り合ったことから『長恨歌』を作詩したそうです。

大勢の人々が犠牲になり、唐王朝が傾くきっかけとなった安史の乱、そして玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードは、半世紀を経てもなお鮮明に語り継がれていたのでしょう。

『長恨歌』はあくまで物語という体で作られており、玄宗皇帝と楊貴妃の名前はぼかされていますが、前半部分はほとんど史実に基づいています。

後半部分は道士が貴妃の魂を探すというファンタジーとなっており、のちの文学や戯曲に多大な影響を与えました。

『源氏物語』もその一つで、桐壺帝と桐壺更衣のエピソードには『長恨歌』がベースにあります。

漢詩としては長編の作品ですが、全文を読むのにそれほどの時間はかかりません。

内容もわかりやすいので、読みやすいかと思います。

ぜひ現代語訳だけでも目を通していただけると嬉しいです♪

ユクカモ

ルビとピンインを振った原文も読んでみるといいかも♪

白居易『長恨歌』原文と現代語訳

漢の皇帝と楊家の娘

原文と書き下し文

 長 cháng 恨 hèn 歌 

 漢 hàn 皇 huáng 重 zhòng 色  思  傾 qīng 国 guó

 御  宇  多 duō 年 nián 求 qiú 不  得 

 楊 yáng 家 jiā 有 yǒu 女  初 chū 長 zhǎng 成 chéng

 養 yǎng 在 zài 深 shēn 閨 guī 人 rén 未 wèi 識 shí

 天 tiān 生 shēng 麗  質 zhì 難 nán 自  棄 

 一  朝 zhāo 選 xuǎn 在 zài 君 jūn 王 wáng 側 

 迴 huí 眸 móu 一  笑 xiào 百 bǎi 媚 mèi 生 shēng

 六 liù 宮 gōng 粉 fěn 黛 dài 無  顔 yán 色 

 春 chūn 寒 hán 賜  浴  華 huá 清 qīng 池 chí

 温 wēn 泉 quán 水 shuǐ 滑 huá 洗  凝 níng 脂 zhī

 侍 shì 児 ér 扶  起  嬌 jiāo 無  力 

 始 shǐ 是 shì 新 xīn 承 chéng 恩 ēn 澤  時 shí

 雲 yún 鬢 bìn 花 huā 顔 yán 金 jīn 歩  揺 yáo

 芙  蓉 róng 帳 zhàng 暖 nuǎn 度  春 chūn 宵 xiāo

 春 chūn 宵 xiāo 苦  短 duǎn 日  高 gāo 起 

 従 cóng 此  君 jūn 王 wáng 不  早 zǎo 朝 cháo

 承 chéng 歓 huān 侍 shì 宴 yàn 無  閑 xián 暇 xiá

 春 chūn 従 cóng 春 chūn 遊 yóu 夜  専 zhuān 夜 

 後 hòu 宮 gōng 佳 jiā 麗  三 sān 千 qiān 人 rén

 三 sān 千 qiān 寵 chǒng 愛 ài 在 zài 一  身 shēn

 金 jīn 屋  粧 zhuāng 成 chéng 嬌 jiāo 侍 shì 夜 

 玉  楼 lóu 宴 yàn 罷  酔 zuì 和  春 chūn

 姉  妹 mèi 弟  兄 xiōng 皆 jiē 列 liè 土 

 可  怜 lián 光 guāng 彩 cǎi 生 shēng 門 mén 戸 

 遂 suì 令 lìng 天 tiān 下 xià 父  母  心 xīn

 不  重 zhòng 生 shēng 男 nán 重 zhòng 生 shēng 女 

ちょうごん

漢皇かんこういろおもんじて傾国けいこくおも

御宇ぎょうねんもとむれども

ようむすめはじめて長成ちょうせい

やしなわれて深閨しんけいればひといまらず

天生てんせい麗質れいしつおのずかがた

一朝いっちょうえらばれて君王くんのうかたわら

ひとみめぐらしてひとたびわらえばひゃくこびしょう

六宮りっきゅう粉黛ふんたい顔色がんしょく

春寒はるさむくしてよくたませいいけ

温泉おんせんみずなめらかにして凝脂ぎょうしあら

侍児じじたすこすもきょうとしてちから

はじめてあらたに恩沢おんたくけしときなり

雲鬢うんびんがんきんよう

ようとばりあたたかくして春宵しゅんしょうわた

春宵しゅんしょうはなはみじかくてたかくして

君王くんのう早朝そうちょうせず

かんえんしてかん

はるはるあそびにしたがよるよるもっぱらにす

後宮こうきゅうれい三千人さんぜんにん

三千さんぜん寵愛ちょうあい一身いっしん

きんおくよそおりてきょうとしてよる

玉楼ぎょくろうえんみてひてはる

姉妹しまい弟兄ていけいれっ

あわれ光彩こうさいもんしょう

ついてん父母ふぼこころをして

おとこむをおもんぜずおんなむをおもんぜしむ

現代語訳

 漢の皇帝は女色を重んじて、国を傾けるほどの美女を望んでいた。しかし御治世の多年、どれだけ探し求めても得られなかった。

 楊家に娘あり、成人したばかりである。奥の部屋で大切に育てられていたため、人はまだ誰も知らない。天生の麗しい素質はおのずから捨てがたく、一朝に選ばれて君王のそばに仕える身となった。瞳をめぐらせて一たび微笑めば、百の愛嬌が生まれる。六宮の華やかに装う美女たちも、色気を無くしてしまう。

 春はまだ寒くして、湯浴を賜わる華清の池。温泉の水はなめらかで、つややかな白い肌を洗う。侍女が支え起こすも、なまめかしく力なくゆらめく。初めてこれ新たに、帝の寵愛を承った時であった。雲のように豊かなびん髪、花のように美しい顔つき、歩けば揺れる金の髪飾り。芙蓉のとばりは暖かく、春の宵を過ごす。春の宵は苦しいほどに短くて、日が高くなってようやく起きた。これより君王、早朝のまつりごとを怠る。

娥眉馬前に死す

漢文

 驪  宮 gōng 高 gāo 処 chù 入  青 qīng 雲 yún

 仙 xiān 楽 yuè 風 fēng 飄 piāo 処 chù 処 chù 聞 wén

 緩 huǎn 歌  慢 màn 舞  凝 níng 糸  竹 zhú

 尽 jìn 日  君 jūn 王 wáng 看 kàn 不  足 

 漁  陽 yáng 鼙  鼓  動 dòng 地  来 lái

 驚 jīng 破  霓  裳 cháng 羽  衣  曲 

 九 jiǔ 重 chóng 城 chéng 闕 què 煙 yān 塵 chén 生 shēng

 千 qiān 乗 shèng 万 wàn 騎  西  南 nán 行 xíng

翠 cuì 華 huá 揺 yáo 揺 yáo 行 xíng 復  止 zhǐ

 西  出 chū 都  門 mén 百 bǎi 余  里 

 六 liù 軍 jūn 不  発  無  奈 nài 何 

 宛 wǎn 転 zhuǎn 娥 é 眉 méi 馬  前 qián 死 

 花 huā 鈿 diàn 委 wěi 地  無  人 rén 收 shōu

 翠 cuì 翹 qiào 金 jīn 雀 què 玉  搔 sāo 頭 tóu

 君 jūn 王 wáng 掩 yǎn 面 miàn 救 jiù 不  得 

 迴 huí 看 kàn 血 xuè 涙 lèi 相 xiāng 和  流 liú

 黄 huáng 埃 āi 散 sǎn 漫 màn 風 fēng 蕭 xiāo 索 suǒ

 雲 yún 桟 zhàn 縈 yíng 紆  登 dēng 剣 jiàn 閣 

 峨 é 嵋 méi 山 shān 下 xià 少 shǎo 人 rén 行 xíng

 旌 jīng 旗  無  光 guāng 日  色  薄 

 蜀 shǔ 江 jiāng 水 shuǐ 碧  蜀 shǔ 山 shān 青 qīng

 聖 shèng 主 zhǔ 朝 zhāo 朝 zhāo 暮  暮  情 qíng

 行 xíng 宮 gōng 見 jiàn 月 yuè 傷 shāng 心 xīn 色 

 夜  雨  聞 wén 鈴 líng 腸 cháng 断 duàn 声 shēng

書き下し文

驪宮りきゅうたかところ青雲せいうん

仙楽せんがくかぜひるがえりて処処しょしょこゆ

かんまんちくらし

尽日じんじつ君王くんのうれどもりず

漁陽ぎょようへいうごかしてたり

驚破きょうは霓裳げいしょう羽衣ういきょく

九重きゅうちょう城闕じょうけつ煙塵えんじんしょう

千乗せんじょうばん西南せいなん

すい揺揺ようようとしてきてまる

西にしのかたもんでてひゃく余里より

六軍りくぐんはっせず奈何いかんともする

宛転えんてんたる娥眉がびぜん

でんゆだねられてひとおさむる

翠翹すいぎょう金雀きんじゃく玉搔頭ぎょくそうとう

君王くんのうめんおおいてすく

かえれば血涙けつるいしてなが

黄埃こうあい散漫さんまんとしてかぜ蕭索しょうさくたり

雲桟うんさんえいして剣閣けんかくのぼ

峨嵋がびさんひとくことすくなく

せいひかり日色にっしょくうす

蜀江しょくこうみずみどりにして蜀山しょくざんあお

聖主せいしゅ朝朝ちょうちょう暮暮ぼぼじょう

行宮あんぐうつきれば傷心しょうしんいろ

夜雨やうすずけばちょうたれるこえ

現代語訳

 驪宮は高いところ、青雲に入る。仙楽の音は風に乗り、あちらこちらで聞こえる。緩やかに歌い、ゆったりと舞い、管絃の音を情緒たっぷりに奏でて、一日を尽くしても君王は飽き足らない。

 漁陽の攻め太鼓が、大地をとどろかせて来た。驚き破られる霓裳羽衣の曲。九つ重なる城門には煙と塵が立ち昇り、一千の馬車と一万の騎兵が西南へ逃げ行く。

 翠華の御旗はゆらゆらと迷い、進んではまた止まる。都の門を西へ出て百里余り、六軍は出発せず、いかんともできない。みやびな眉の美しい人は、馬嵬の地を前に死す。花のかんざしは地にうち捨てられて、拾おうとする人はいない。かわせみの髪飾りも、金雀のかんざしも、宝玉のくしも。君王は玉顔を覆うばかりで、救おうにも救えない。振り返って見れば、血と涙が相混じって流れていた。

 黄色い砂埃は散漫として風にわびしく舞い上がり、雲上の桟橋を絶壁にまといつくようにして剣閣山を登る。峨嵋山のふもとは人の往来も少なく、色あざやかな御旗は山影で光なく、日差しの色も薄い。蜀江の水は碧緑に澄み、蜀山は青々と美しい。聖主は朝朝暮暮、亡き人への慕情に沈む。行宮から月を見れば、傷心の顔色を浮かべ、雨の夜に鈴の音を聞けば、断腸の声を上げる。

太液芙蓉、未央柳

漢文

 天 tiān 旋 xuán 地  転 zhuàn 迴 huí 龍 lóng 馭 

 到 dào 此  躊 chóu 躇 chú 不  能 néng 去 

 馬  嵬 wéi 坡  下 xià 泥  土  中 zhōng

 不  見 jiàn 玉  顔 yán 空 kōng 死  処 chù

 君 jūn 臣 chén 相 xiāng 顧  尽 jìn 霑 zhān 衣 

 東 dōng 望 wàng 都  門 mén 信 xìn 馬  帰 guī

 帰 guī 来 lái 池 chí 苑 yuàn 皆 jiē 依  旧 jiù

 太 tài 液  芙  蓉 róng 未 wèi 央 yāng 柳 liǔ

 芙  蓉 róng 如  面 miàn 柳 liǔ 如  眉 méi

 対 duì 此  如  何  不  涙 lèi 垂 chuí

 春 chūn 風 fēng 桃 táo 李  花 huā 開 kāi 日 

 秋 qiū 雨  梧  桐 tóng 叶  落 luò 時 shí

 西  宮 gōng 南 nán 苑 yuàn 多 duō 秋 qiū 草 cǎo

 落 luò 叶  満 mǎn 階 jiē 紅 hóng 不  掃 sǎo

 梨  園 yuán 弟  子  白 bái 髪  新 xīn

 椒 jiāo 房 fáng 阿 ā 監 jiān 青 qīng 娥 é 老 lǎo

 夕  殿 diàn 蛍 yíng 飛 fēi 思  悄 qiǎo 然 rán

 孤  灯 dēng 挑 tiǎo 尽 jìn 未 wèi 成 chéng 眠 mián

 遅 chí 遅 chí 鐘 zhōng 鼓  初 chū 長 cháng 夜 

 耿 gěng 耿 gěng 星 xīng 河  欲  曙 shǔ 天 tiān

 鴛 yuān 鴦 yāng 瓦  冷 lěng 霜 shuāng 華 huá 重 zhòng

 翡 fěi 翠 cuì 衾 qīn 寒 hán 誰 shuí 与  共 gòng

 悠 yōu 悠 yōu 生 shēng 死  別 bié 経 jīng 年 nián

 魂 hún 魄  不  曾 céng 来 lái 入  夢 mèng

 臨 lín 邛 qióng 道 dào 士 shì 鴻 hóng 都  客 

 能 néng 以  精 jīng 誠 chéng 致 zhì 魂 hún 魄 

 為 wèi 感 gǎn 君 jūn 王 wáng 展 zhǎn 転 zhuǎn 思 

 遂 suì 教 jiào 方 fāng 士 shì 殷 yīn 勤 qín 覓 

 排 pái 空 kōng 馭  気  奔 bēn 如  電 diàn

 昇 shēng 天 tiān 入  地  求 qiú 之 zhī 遍 biàn

 上 shàng 窮 qióng 碧  落 luò 下 xià 黄 huáng 泉 quán

 両 liǎng 処 chù 茫 máng 茫 máng 皆 jiē 不  見 jiàn

書き下し文

てんめぐてんじて龍馭りゅうぎょめぐらし

ここいたりて躊躇ちゅうちょしてることあたわず

かいもとでいなか

玉顔ぎょくがんむなしくせるところ

君臣くんしんかえりみてことごところもうるお

ひがしのかたもんのぞみてうままかせてかえ

かえたればえんきゅう

たいえきようおうやなぎ

ようめんごとやなぎまゆごと

れにたいして如何いかんなみだれざらん

春風しゅんぷうとう花開はなひら

秋雨しゅううどうつるとき

西宮せいきゅう南苑なんえん秋草しゅうそうおお

落葉らくようきざはしちてくれないはらわず

えんてい白髪はくはつあらたに

椒房しゅうぼうらんせい

せき殿でんほたるびておもしょうぜんたり

とうかかつくすもいまねむりをさず

遅遅ちちたるしょうはじめてながよる

耿耿こうこうたるせいけんとほっするてん

鴛鴦えんおうがわらややかにしてそうおも

すいしとねさむくしてたれとかともにせん

悠悠ゆうゆうたるせいわかれてとしたり

魂魄こんぱくかつたりてゆめらず

りんきょうどうこうかく

せいせいもっ魂魄こんぱくいた

君王くんのう展転てんてんおもいにかんずるがため

ついほうをしていんぎんもとめしむ

くうはいぎょしてはしることいなずまごと

てんのぼりてこれもとむることあまね

うえ碧落へきらくきわした黄泉こうせん

両処りょうしょ茫茫ぼうぼうとしてえず

現代語訳

 天はめぐり、地は転じて、龍の御車を都へと引き返す。この地に至ると歩みを躊躇して、立ち去ることができない。馬嵬の坂道の下、泥土の中、玉顔を見ず、空しく死んだところ。君臣たちも互いに回顧して、ことごとく衣を潤す。東に都の門を望み、馬に身を任せて帰る。

 都に帰り着くと、宮殿の御池も御苑もみな依然として残っている。太液池の芙蓉も、未央宮の柳も。芙蓉は亡き人の顔のごとく、柳は眉のごとし。これに対して、どうして涙が垂れないことがあろうか。春の風に桃李の花が開く日も、秋の雨に梧桐の葉が落ちる時も。西の御殿も南の御苑も秋の草が多く茂り、落ち葉はきざはしに満ちて紅を掃き清めない。梨園の芸妓は白髪が新たに、椒房の女官は青々と描いた眉が老いを引き立たせる。

 夕暮れの宮殿に蛍が飛び交い、憂いの思いにうち沈んでいる。孤灯の明かりをともし尽くすも、いまだ眠りを成さない。遅々と鳴り響く鐘鼓が告げる、秋の夜長の始まり。白々と消えゆく星の運河に、明けんと欲する天の空。鴛鴦瓦は冷ややかで、霜花は重い。翡翠のしとねは寒くして、誰と共にしようか。悠々たる生死、別れて年を経た。亡き人の魂はいまだかつて来たことがなく、夢に現れてくれない。

 臨邛の道士、鴻都の客。精神誠意の力をもってして、死者の魂とつながることができる者である。君王の夜も眠れぬ思いに共感するがために、ついに仙術をして入念に探し求めさせた。空をしりぞけ、大気を駆けて走るさまは稲妻のごとし。天に昇っては地に潜り、くまなくこれを求め、上は碧天の彼方まで達し、下は黄泉の国まで。どちらも果てしなく広がるばかりで何も見えない。

此恨綿綿無絶期

漢文

 忽  聞 wén 海 hǎi 上 shàng 有 yǒu 仙 xiān 山 shān

 山 shān 在 zài 虚  無  縹 piāo 緲 miǎo 間 jiān

 楼 lóu 閣  玲 líng 瓏 lóng 五  雲 yún 起 

 其  中 zhōng 綽 chuò 約 yuē 多 duō 仙 xiān 子 

 中 zhōng 有 yǒu 一  人 rén 字  太 tài 真 zhēn

 雪 xuě 膚  花 huā 貌 mào 参 cēn 差  是 shì

 金 jīn 闕 què 西  廂 xiāng 叩 kòu 玉  扃 jiōng

 転 zhuǎn 教 jiào 小 xiǎo 玉  報 bào 双 shuāng 成 chéng

 聞 wén 道 dào 漢 hàn 家 jiā 天 tiān 子  使 shǐ

 九 jiǔ 華 huá 帳 zhàng 裏  夢 mèng 魂 hún 驚 jīng

 攬 lǎn 衣  推 tuī 枕 zhěn 起  徘 pái 徊 huái

 珠 zhū 箔  銀 yín 屏 píng 邐  迤  開 kāi

 雲 yún 鬢 bìn 半 bàn 偏 piān 新 xīn 睡 shuì 覚 jué

 花 huā 冠 guān 不  整 zhěng 下 xià 堂 táng 来 lái

 風 fēng 吹 chuī 仙 xiān 袂 mèi 飄 piāo 颻 yáo 挙 

 猶 yóu 似  霓  裳 cháng 羽  衣  舞 

 玉  容 róng 寂  寞  涙 lèi 闌 lán 干 gān

 梨  花 huā 一  枝 zhī 春 chūn 帯 dài 雨 

 含 hán 情 qíng 凝 níng 睇  謝 xiè 君 jūn 王 wáng

 一  別 bié 音 yīn 容 róng 両 liǎng 眇 miǎo 茫 máng

 昭 zhāo 陽 yáng 殿 diàn 裏  恩 ēn 愛 ài 絶 jué

 蓬 péng 萊 lái 宮 gōng 中 zhōng 日  月 yuè 長 cháng

 迴 huí 頭 tóu 下 xià 望 wàng 人 rén 寰 huán 処 chù

 不  見 jiàn 長 cháng 安 ān 見 jiàn 塵 chén 霧 

 唯 wéi 将 jiāng 旧 jiù 物  表 biǎo 深 shēn 情 qíng

 鈿 diàn 合  金 jīn 釵 chāi 寄  将 jiāng 去 

 釵 chāi 留 liú 一  股  合  一  扇 shàn

 釵 chāi 擘  黄 huáng 金 jīn 合  分 fēn 鈿 diàn

 但 dàn 教 jiào 心 xīn 似  金 jīn 鈿 diàn 堅 jiān

 天 tiān 上 shàng 人 rén 間 jiān 会 huì 相 xiāng 見 jiàn

 臨 lín 別 bié 殷 yīn 勤 qín 重 chóng 寄  詞 

 詞  中 zhōng 有 yǒu 誓 shì 両 liǎng 心 xīn 知 zhī

 七  月 yuè 七  日  長 cháng 生 shēng 殿 diàn

 夜  半 bàn 無  人 rén 私  語  時 shí

 在 zài 天 tiān 願 yuàn 作 zuò 比  翼  鳥 niǎo

 在 zài 地  願 yuàn 為 wéi 連 lián 理  枝 zhī

 天 tiān 長 cháng 地  久 jiǔ 有 yǒu 時 shí 尽 jìn

 此  恨 hèn 綿 mián 綿 mián 無  絶 jué 期 

書き下し文

たちま海上かいじょう仙山せんざんりと

やまきょ縹緲ひょうびょうかん

楼閣ろうかく玲瓏れいろうとしてうんこり

なか綽約しゃくやくとしてせんおお

なか一人ひとりあざな太真たいしん

ゆきはだはなかんばせしんとしてれなり

金闕きんけつ西廂せいしょう玉扃ぎょっけいたた

てんじて小玉しょうぎょくをして双成そうせいほうぜしむ

聞道きくならかんてん使つかいと

九華きゅうか帳裏ちょうりこんおどろ

ころもまくらちて徘徊はいかい

珠箔しゅはく銀屛ぎんぺい邐迤りいとしてひら

うんびんなかくたれてあらたにねむ

かんととのえずどうりてたる

かぜせんべいきて飄颻ひょうようとしてがる

たりげいしょう羽衣ういまい

ぎょくよう寂寞せきばくとしてなみだらんかんたり

梨花りか一枝いっし春雨はるあめ

じょうふくみひとみらして君王くんのうしゃ

ひとたびわかれしより音容おんようふたつながら眇茫びょうぼうたり

しょうよう殿でん恩愛おんあい

蓬萊ほうらい宮中きゅうちゅう日月じつげつなが

こうべめぐらして人寰じんかんところしたのぞめば

長安ちょうあんえずじん

旧物きゅうぶつもっ深情しんじょうあらわさん

鈿合でんごう金釵きんさいらしむ

さいいっとどめてごういっせん

さい黄金おうごんごうでんかつ

こころをして金鈿きんでんかたきにせしむれば

天上てんじょう人間じんかんかならまみえんと

わかれにのぞんでいんぎんかさねてことば

ことばなかちか両心りょうしんのみ

七月しちがつ七日なのか長生ちょうせい殿でん

はんひと私語しごとき

てんりてはねがわくはよくとり

りてはねがわくはれんえだらんと

てんながひさしきもときりてきん

うら綿綿めんめんとしてえるからん

現代語訳

 たちまちに聞く、海上に仙女が住む山があると。山は虚無に霞んだ空間にあり、楼閣は宝石のように透明な輝きをまとい、五色の雲が立ちこめている。その中に、しなやかで美しい仙女多し。中に一人あり、字は太真。雪のように白い肌、華やかな容貌、ほとんど差がなくまさにこの方である。黄金の門をくぐり、西の廂へ進み、玉の扉をたたくと、小玉に取り次がせて双成へと知らせる。漢家の天子の使いであると聞くと、九華の花模様のとばりの中で夢を見ていた魂が、驚いて目を覚ます。

 衣を手に取り、枕を押すようにして起き上がると、とまどい足踏みする。心珠のすだれ、銀の屏風がするすると開く。雲のように豊かな髪は一方に偏り、新たに眠りから覚めたばかりの姿で、花冠も整えずに堂を下りて来た。風が仙女のたもとを吹き上げて、ひらひらと舞い上がる。まさに似ている、霓裳羽衣の舞に。玉のような顔つきは寂寞として、涙がはらはらと流れ落ちる。梨の花の一枝が、春の雨を帯びるように。

 情を含めて、ひとみを凝らして道士を見つめ、君王への感謝の言葉を告げる。

「一たびお別れしてから、御声も御姿も両方ともぼんやりとしていました。昭陽殿の中で賜った恩愛は絶えて、蓬萊宮の中で過ごす年月は長く感じられます。頭をめぐらせて人の世を下に眺めれば、長安は見えず、塵の霧が見えるばかりです。ただ、形見の遺品を頼りに、深い愛情を表したく存じます。螺鈿の小箱と、金のかんざしをお持ち帰りください。かんざしは一本を手元に留めて、小箱は一箱を。かんざしは黄金を割き、小箱は螺鈿を分けて、ただ二人の心を黄金と螺鈿のように堅く契れば、天上界でも人間界でも必ず、お互いに相いまみえるでしょう」

 別れに臨んで、ねんごろに重ねて詞を寄せる。詞の中に誓いあり、それは二人の心のみ知ること。七月七日、長生殿、夜半に人はなく、ささやき声で語る時。

「天にあっては、願わくは比翼の鳥となり、地にあっては、願わくは連理の枝となりましょう」

 天は長く、地は悠久であるも、時は有限であり、いつかは尽きる。この悲しみは綿々と続き、絶えることはないだろう。

【全文】白居易『長恨歌』現代語訳

 漢の皇帝は女色を重んじて、国を傾けるほどの美女を望んでいた。しかし御治世の多年、どれだけ探し求めても得られなかった。

 楊家に娘あり、成人したばかりである。奥の部屋で大切に育てられていたため、人はまだ誰も知らない。天生の麗しい素質はおのずから捨てがたく、一朝に選ばれて君王のそばに仕える身となった。瞳をめぐらせて一たび微笑めば、百の愛嬌が生まれる。六宮の華やかに装う美女たちも、色気を無くしてしまう。

 春はまだ寒くして、湯浴を賜わる華清の池。温泉の水はなめらかで、つややかな白い肌を洗う。侍女が支え起こすも、なまめかしく力なくゆらめく。初めてこれ新たに、帝の寵愛を承った時であった。雲のように豊かなびん髪、花のように美しい顔つき、歩けば揺れる金の髪飾り。芙蓉のとばりは暖かく、春の宵を過ごす。春の宵は苦しいほどに短くて、日が高くなってようやく起きた。これより君王、早朝のまつりごとを怠る。

 帝の歓心を承り、宴席にもそばでお仕えして閑暇なし。春は春の御遊びに付き従い、夜は夜のお供を専らに付き添う。後宮の華麗な美女たち三千人、三千の寵愛が一身にあり。金の御殿ではおめかしして艶やかに夜を興じ、玉の楼殿では宴を抜け出して酔いと春の気に調和する。

 姉妹兄弟みな領土を賜り、誰もがうらやむ光彩なる一門が誕生した。ついに天下の父母の心は、男子を生むことを重んぜず、女子を生むことを重んずるようになった。

 驪宮は高いところ、青雲に入る。仙楽の音は風に乗り、あちらこちらで聞こえる。緩やかに歌い、ゆったりと舞い、管絃の音を情緒たっぷりに奏でて、一日を尽くしても君王は飽き足らない。

 漁陽の攻め太鼓が、大地をとどろかせて来た。驚き破られる霓裳羽衣の曲。九つ重なる城門には煙と塵が立ち昇り、一千の馬車と一万の騎兵が西南へ逃げ行く。

 翠華の御旗はゆらゆらと迷い、進んではまた止まる。都の門を西へ出て百里余り、六軍は出発せず、いかんともできない。みやびな眉の美しい人は、馬嵬の地を前に死す。花のかんざしは地にうち捨てられて、拾おうとする人はいない。かわせみの髪飾りも、金雀のかんざしも、宝玉のくしも。君王は玉顔を覆うばかりで、救おうにも救えない。振り返って見れば、血と涙が相混じって流れていた。

 黄色い砂埃は散漫として風にわびしく舞い上がり、雲上の桟橋を絶壁にまといつくようにして剣閣山を登る。峨嵋山のふもとは人の往来も少なく、色あざやかな御旗は山影で光なく、日差しの色も薄い。蜀江の水は碧緑に澄み、蜀山は青々と美しい。聖主は朝朝暮暮、亡き人への慕情に沈む。行宮から月を見れば、傷心の顔色を浮かべ、雨の夜に鈴の音を聞けば、断腸の声を上げる。

 天はめぐり、地は転じて、龍の御車を都へと引き返す。この地に至ると歩みを躊躇して、立ち去ることができない。馬嵬の坂道の下、泥土の中、玉顔を見ず、空しく死んだところ。君臣たちも互いに回顧して、ことごとく衣を潤す。東に都の門を望み、馬に身を任せて帰る。

 都に帰り着くと、宮殿の御池も御苑もみな依然として残っている。太液池の芙蓉も、未央宮の柳も。芙蓉は亡き人の顔のごとく、柳は眉のごとし。これに対して、どうして涙が垂れないことがあろうか。春の風に桃李の花が開く日も、秋の雨に梧桐の葉が落ちる時も。西の御殿も南の御苑も秋の草が多く茂り、落ち葉はきざはしに満ちて紅を掃き清めない。梨園の芸妓は白髪が新たに、椒房の女官は青々と描いた眉が老いを引き立たせる。

 夕暮れの宮殿に蛍が飛び交い、憂いの思いにうち沈んでいる。孤灯の明かりをともし尽くすも、いまだ眠りを成さない。遅々と鳴り響く鐘鼓が告げる、秋の夜長の始まり。白々と消えゆく星の運河に、明けんと欲する天の空。鴛鴦瓦は冷ややかで、霜花は重い。翡翠のしとねは寒くして、誰と共にしようか。悠々たる生死、別れて年を経た。亡き人の魂はいまだかつて来たことがなく、夢に現れてくれない。

 臨邛の道士、鴻都の客。精神誠意の力をもってして、死者の魂とつながることができる者である。君王の夜も眠れぬ思いに共感するがために、ついに仙術をして入念に探し求めさせた。空をしりぞけ、大気を駆けて走るさまは稲妻のごとし。天に昇っては地に潜り、くまなくこれを求め、上は碧天の彼方まで達し、下は黄泉の国まで。どちらも果てしなく広がるばかりで何も見えない。

 たちまちに聞く、海上に仙女が住む山があると。山は虚無に霞んだ空間にあり、楼閣は宝石のように透明な輝きをまとい、五色の雲が立ちこめている。その中に、しなやかで美しい仙女多し。中に一人あり、字は太真。雪のように白い肌、華やかな容貌、ほとんど差がなくまさにこの方である。黄金の門をくぐり、西の廂へ進み、玉の扉をたたくと、小玉に取り次がせて双成へと知らせる。漢家の天子の使いであると聞くと、九華の花模様のとばりの中で夢を見ていた魂が、驚いて目を覚ます。

 衣を手に取り、枕を押すようにして起き上がると、とまどい足踏みする。心珠のすだれ、銀の屏風がするすると開く。雲のように豊かな髪は一方に偏り、新たに眠りから覚めたばかりの姿で、花冠も整えずに堂を下りて来た。風が仙女のたもとを吹き上げて、ひらひらと舞い上がる。まさに似ている、霓裳羽衣の舞に。玉のような顔つきは寂寞として、涙がはらはらと流れ落ちる。梨の花の一枝が、春の雨を帯びるように。

 情を含めて、ひとみを凝らして道士を見つめ、君王への感謝の言葉を告げる。

「一たびお別れしてから、御声も御姿も両方ともぼんやりとしていました。昭陽殿の中で賜った恩愛は絶えて、蓬萊宮の中で過ごす年月は長く感じられます。頭をめぐらせて人の世を下に眺めれば、長安は見えず、塵の霧が見えるばかりです。ただ、形見の遺品を頼りに、深い愛情を表したく存じます。螺鈿の小箱と、金のかんざしをお持ち帰りください。かんざしは一本を手元に留めて、小箱は一箱を。かんざしは黄金を割き、小箱は螺鈿を分けて、ただ二人の心を黄金と螺鈿のように堅く契れば、天上界でも人間界でも必ず、お互いに相いまみえるでしょう」

 別れに臨んで、ねんごろに重ねて詞を寄せる。詞の中に誓いあり、それは二人の心のみ知ること。七月七日、長生殿、夜半に人はなく、ささやき声で語る時。

「天にあっては、願わくは比翼の鳥となり、地にあっては、願わくは連理の枝となりましょう」

 天は長く、地は悠久であるも、時は有限であり、いつかは尽きる。この悲しみは綿々と続き、絶えることはないだろう。

【全文】白居易『長恨歌』の原文と書き下し文

 長 cháng 恨 hèn 歌  ちょうごん
 漢 hàn 皇 huáng 重 zhòng 色  思  傾 qīng 国 guó 漢皇かんこういろおもんじて傾国けいこくおも
 御  宇  多 duō 年 nián 求 qiú 不  得  御宇ぎょうねんもとむれども
 楊 yáng 家 jiā 有 yǒu 女  初 chū 長 zhǎng 成 chéng ようむすめはじめて長成ちょうせい
 養 yǎng 在 zài 深 shēn 閨 guī 人 rén 未 wèi 識 shí やしなわれて深閨しんけいればひといまらず
 天 tiān 生 shēng 麗  質 zhì 難 nán 自  棄  天生てんせい麗質れいしつおのずかがた
 一  朝 zhāo 選 xuǎn 在 zài 君 jūn 王 wáng 側  一朝いっちょうえらばれて君王くんのうかたわら
迴 huí 眸 móu 一  笑 xiào 百 bǎi 媚 mèi 生 shēng ひとみめぐらしてひとたびわらえばひゃくこびしょう
 六 liù 宮 gōng 粉 fěn 黛 dài 無  顔 yán 色  六宮りっきゅう粉黛ふんたい顔色がんしょく
 春 chūn 寒 hán 賜  浴  華 huá 清 qīng 池 chí 春寒はるさむくしてよくたまわるせいいけ
 温 wēn 泉 quán 水 shuǐ 滑 huá 洗  凝 níng 脂 zhī 温泉おんせんみずなめらかにして凝脂ぎょうしあら
 侍 shì 児 ér 扶  起  嬌 jiāo 無  力  侍児じじたすこすもきょうとしてちから
 始 shǐ 是 shì 新 xīn 承 chéng 恩 ēn 澤  時 shí はじめてあらたに恩沢おんたくけしときなり
 雲 yún 鬢 bìn 花 huā 顔 yán 金 jīn 歩  揺 yáo 雲鬢うんびんがんきんよう
 芙  蓉 róng 帳 zhàng 暖 nuǎn 度  春 chūn 宵 xiāo ようとばりあたたかくして春宵しゅんしょうわた
 春 chūn 宵 xiāo 苦  短 duǎn 日  高 gāo 起  春宵しゅんしょうはなはみじかくてたかくして
 従 cóng 此  君 jūn 王 wáng 不  早 zǎo 朝 cháo 君王くんのう早朝そうちょうせず
 承 chéng 歓 huān 侍 shì 宴 yàn 無  閑 xián 暇 xiá かんえんしてかん
 春 chūn 従 cóng 春 chūn 遊 yóu 夜  専 zhuān 夜  はるはるあそびにしたがよるよるもっぱらにす
 後 hòu 宮 gōng 佳 jiā 麗  三 sān 千 qiān 人 rén 後宮こうきゅうれい三千人さんぜんにん
 三 sān 千 qiān 寵 chǒng 愛 ài 在 zài 一  身 shēn 三千さんぜん寵愛ちょうあい一身いっしん
 金 jīn 屋  粧 zhuāng 成 chéng 嬌 jiāo 侍 shì 夜  きんおくよそおりてきょうとしてよる
 玉  楼 lóu 宴 yàn 罷  酔 zuì 和  春 chūn 玉楼ぎょくろうえんみてひてはる
 姉  妹 mèi 弟  兄 xiōng 皆 jiē 列 liè 土  姉妹しまい弟兄ていけいれっ
 可  憐 lián 光 guāng 彩 cǎi 生 shēng 門 mén 戸  あわれ光彩こうさいもんしょう
 遂 suì 令 lìng 天 tiān 下 xià 父  母  心 xīn ついてん父母ふぼこころをして
 不  重 zhòng 生 shēng 男 nán 重 zhòng 生 shēng 女  おとこむをおもんぜずおんなむをおもんぜしむ
 驪  宮 gōng 高 gāo 処 chù 入  青 qīng 雲 yún 驪宮りきゅうたかところ青雲せいうん
 仙 xiān 楽 yuè 風 fēng 飄 piāo 処 chù 処 chù 聞 wén 仙楽せんがくかぜひるがえりて処処しょしょこゆ
 緩 huǎn 歌  慢 màn 舞  凝 níng 糸  竹 zhú かんまんちくらし
 尽 jìn 日  君 jūn 王 wáng 看 kàn 不  足  尽日じんじつ君王くんのうれどもりず
 漁  陽 yáng 鼙  鼓  動 dòng 地  来 lái 漁陽ぎょようへいうごかしてたり
 驚 jīng 破  霓  裳 cháng 羽  衣  曲  驚破きょうは霓裳げいしょう羽衣ういきょく
 九 jiǔ 重 chóng 城 chéng 闕 què 煙 yān 塵 chén 生 shēng 九重きゅうちょう城闕じょうけつ煙塵えんじんしょう
 千 qiān 乗 shèng 万 wàn 騎  西  南 nán 行 xíng 千乗せんじょうばん西南せいなん
 翠 cuì 華 huá 揺 yáo 揺 yáo 行 xíng 復  止 zhǐ すい揺揺ようようとしてきてまる
 西  出 chū 都  門 mén 百 bǎi 余  里  西にしのかたもんでてひゃく余里より
 六 liù 軍 jūn 不  発  無  奈 nài 何  六軍りくぐんはっせず奈何いかんともする
 宛 wǎn 転 zhuǎn 娥 é 眉 méi 馬  前 qián 死  宛転えんてんたる娥眉がびぜん
 花 huā 鈿 diàn 委 wěi 地  無  人 rén 收 shōu でんゆだねられてひとおさむる
 翠 cuì 翹 qiào 金 jīn 雀 què 玉  搔 sāo 頭 tóu 翠翹すいぎょう金雀きんじゃく玉搔頭ぎょくそうとう
 君 jūn 王 wáng 掩 yǎn 面 miàn 救 jiù 不  得  君王くんのうめんおおいてすく
 迴 huí 看 kàn 血 xuè 涙 lèi 相 xiāng 和  流 liú かえれば血涙けつるいしてなが
 黄 huáng 埃 āi 散 sǎn 漫 màn 風 fēng 蕭 xiāo 索 suǒ 黄埃こうあい散漫さんまんとしてかぜ蕭索しょうさくたり
 雲 yún 桟 zhàn 縈 yíng 紆  登 dēng 剣 jiàn 閣  雲桟うんさんえいして剣閣けんかくのぼ
 峨 é 嵋 méi 山 shān 下 xià 少 shǎo 人 rén 行 xíng 峨嵋がびさんひとくことすくなく
 旌 jīng 旗  無  光 guāng 日  色  薄  せいひかり日色にっしょくうす
 蜀 shǔ 江 jiāng 水 shuǐ 碧  蜀 shǔ 山 shān 青 qīng 蜀江しょくこうみずみどりにして蜀山しょくざんあお
 聖 shèng 主 zhǔ 朝 zhāo 朝 zhāo 暮  暮  情 qíng 聖主せいしゅ朝朝ちょうちょう暮暮ぼぼじょう
 行 xíng 宮 gōng 見 jiàn 月 yuè 傷 shāng 心 xīn 色  行宮あんぐうつきれば傷心しょうしんいろ
 夜  雨  聞 wén 鈴 líng 腸 cháng 断 duàn 声 shēng 夜雨やうすずけばちょうたれるこえ
 天 tiān 旋 xuán 地  転 zhuàn 迴 huí 龍 lóng 馭  てんめぐてんじて龍馭りゅうぎょめぐらし
 到 dào 此  躊 chóu 躇 chú 不  能 néng 去  ここいたりて躊躇ちゅうちょしてることあたわず
 馬  嵬 wéi 坡  下 xià 泥  土  中 zhōng かいもとでいなか
 不  見 jiàn 玉  顔 yán 空 kōng 死  処 chù 玉顔ぎょくがんむなしくせるところ
 君 jūn 臣 chén 相 xiāng 顧  尽 jìn 霑 zhān 衣  君臣くんしんかえりみてことごところもうるお
 東 dōng 望 wàng 都  門 mén 信 xìn 馬  帰 guī ひがしのかたもんのぞみてうままかせてかえ
 帰 guī 来 lái 池 chí 苑 yuàn 皆 jiē 依  旧 jiù かえたればえんきゅう
 太 tài 液  芙  蓉 róng 未 wèi 央 yāng 柳 liǔ たいえきようおうやなぎ
 芙  蓉 róng 如  面 miàn 柳 liǔ 如  眉 méi ようめんごとやなぎまゆごと
 対 duì 此  如  何  不  涙 lèi 垂 chuí れにたいして如何いかんなみだれざらん
 春 chūn 風 fēng 桃 táo 李  花 huā 開 kāi 日  春風しゅんぷうとう花開はなひら
 秋 qiū 雨  梧  桐 tóng 叶  落 luò 時 shí 秋雨しゅううどうつるとき
 西  宮 gōng 南 nán 苑 yuàn 多 duō 秋 qiū 草 cǎo 西宮せいきゅう南苑なんえん秋草しゅうそうおお
 落 luò 叶  満 mǎn 階 jiē 紅 hóng 不  掃 sǎo 落葉らくようきざはしちてくれないはらわず
 梨  園 yuán 弟  子  白 bái 髪  新 xīn えんてい白髪はくはつあらたに
 椒 jiāo 房 fáng 阿 ā 監 jiān 青 qīng 娥 é 老 lǎo 椒房しゅうぼうらんせい
 夕  殿 diàn 蛍 yíng 飛 fēi 思  悄 qiǎo 然 rán せき殿でんほたるびておもしょうぜんたり
 孤  灯 dēng 挑 tiǎo 尽 jìn 未 wèi 成 chéng 眠 mián とうかかつくすもいまねむりをさず
 遅 chí 遅 chí 鐘 zhōng 鼓  初 chū 長 cháng 夜  遅遅ちちたるしょうはじめてながよる
 耿 gěng 耿 gěng 星 xīng 河  欲  曙 shǔ 天 tiān 耿耿こうこうたるせいけんとほっするてん
 鴛 yuān 鴦 yāng 瓦  冷 lěng 霜 shuāng 華 huá 重 zhòng 鴛鴦えんおうがわらややかにしてそうおも
 翡 fěi 翠 cuì 衾 qīn 寒 hán 誰 shuí 与  共 gòng すいしとねさむくしてたれとかともにせん
 悠 yōu 悠 yōu 生 shēng 死  別 bié 経 jīng 年 nián 悠悠ゆうゆうたるせいわかれてとしたり
 魂 hún 魄  不  曾 céng 来 lái 入  夢 mèng 魂魄こんぱくかつたりてゆめらず
 臨 lín 邛 qióng 道 dào 士 shì 鴻 hóng 都  客  臨邛りんきょうどうこうかく
 能 néng 以  精 jīng 誠 chéng 致 zhì 魂 hún 魄  せいせいもっ魂魄こんぱくいた
 為 wèi 感 gǎn 君 jūn 王 wáng 展 zhǎn 転 zhuǎn 思  君王くんのう展転てんてんおもいにかんずるがため
 遂 suì 教 jiào 方 fāng 士 shì 殷 yīn 勤 qín 覓  ついほうをしていんぎんもとめしむ
 排 pái 空 kōng 馭  気  奔 bēn 如  電 diàn くうはいぎょしてはしることいなずまごと
 昇 shēng 天 tiān 入  地  求 qiú 之 zhī 遍 biàn てんのぼりてこれもとむることあまね
 上 shàng 窮 qióng 碧  落 luò 下 xià 黄 huáng 泉 quán うえ碧落へきらくきわした黄泉こうせん
 両 liǎng 処 chù 茫 máng 茫 máng 皆 jiē 不  見 jiàn 両処りょうしょ茫茫ぼうぼうとしてえず
 忽  聞 wén 海 hǎi 上 shàng 有 yǒu 仙 xiān 山 shān たちま海上かいじょう仙山せんざんりと
 山 shān 在 zài 虚  無  縹 piāo 緲 miǎo 間 jiān やまきょ縹緲ひょうびょうかん
 楼 lóu 閣  玲 líng 瓏 lóng 五  雲 yún 起  楼閣ろうかく玲瓏れいろうとしてうんこり
 其  中 zhōng 綽 chuò 約 yuē 多 duō 仙 xiān 子  なか綽約しゃくやくとしてせんおお
 中 zhōng 有 yǒu 一  人 rén 字  太 tài 真 zhēn なか一人ひとりあざな太真たいしん
 雪 xuě 膚  花 huā 貌 mào 参 cēn 差  是 shì ゆきはだはなかんばせしんとしてれなり
 金 jīn 闕 què 西  廂 xiāng 叩 kòu 玉  扃 jiōng 金闕きんけつ西廂せいしょう玉扃ぎょっけいたた
 転 zhuǎn 教 jiào 小 xiǎo 玉  報 bào 双 shuāng 成 chéng てんじて小玉しょうぎょくをして双成そうせいほうぜしむ
 聞 wén 道 dào 漢 hàn 家 jiā 天 tiān 子  使 shǐ 聞道きくならかんてん使つかいと
 九 jiǔ 華 huá 帳 zhàng 裏  夢 mèng 魂 hún 驚 jīng 九華きゅうか帳裏ちょうりこんおどろ
 攬 lǎn 衣  推 tuī 枕 zhěn 起  徘 pái 徊 huái ころもまくらちて徘徊はいかい
 珠 zhū 箔  銀 yín 屏 píng 邐  迤  開 kāi 珠箔しゅはく銀屛ぎんぺい邐迤りいとしてひら
 雲 yún 鬢 bìn 半 bàn 偏 piān 新 xīn 睡 shuì 覚 jué うんびんなかくたれてあらたにねむ
 花 huā 冠 guān 不  整 zhěng 下 xià 堂 táng 来 lái かんととのえずどうりてたる
 風 fēng 吹 chuī 仙 xiān 袂 mèi 飄 piāo 颻 yáo 挙  かぜせんべいきて飄颻ひょうようとしてがる
 猶 yóu 似  霓  裳 cháng 羽  衣  舞  たりげいしょう羽衣ういまい
 玉  容 róng 寂  寞  涙 lèi 闌 lán 干 gān ぎょくよう寂寞せきばくとしてなみだらんかんたり
 梨  花 huā 一  枝 zhī 春 chūn 帯 dài 雨  梨花りか一枝いっし春雨はるあめ
 含 hán 情 qíng 凝 níng 睇  謝 xiè 君 jūn 王 wáng じょうふくみひとみらして君王くんのうしゃ
 一  別 bié 音 yīn 容 róng 両 liǎng 眇 miǎo 茫 máng ひとたびわかれしより音容おんようふたつながら眇茫びょうぼうたり
 昭 zhāo 陽 yáng 殿 diàn 裏  恩 ēn 愛 ài 絶 jué しょうよう殿でん恩愛おんあい
 蓬 péng 萊 lái 宮 gōng 中 zhōng 日  月 yuè 長 cháng 蓬萊ほうらい宮中きゅうちゅう日月じつげつなが
 迴 huí 頭 tóu 下 xià 望 wàng 人 rén 寰 huán 処 chù こうべめぐらして人寰じんかんところしたのぞめば
 不  見 jiàn 長 cháng 安 ān 見 jiàn 塵 chén 霧  長安ちょうあんえずじん
 唯 wéi 将 jiāng 旧 jiù 物  表 biǎo 深 shēn 情 qíng 旧物きゅうぶつもっ深情しんじょうあらわさん
 鈿 diàn 合  金 jīn 釵 chāi 寄  将 jiāng 去  鈿合でんごう金釵きんさいらしむ
 釵 chāi 留 liú 一  股  合  一  扇 shàn さいいっとどめてごういっせん
 釵 chāi 擘  黄 huáng 金 jīn 合  分 fēn 鈿 diàn さい黄金おうごんごうでんかつ
 但 dàn 教 jiào 心 xīn 似  金 jīn 鈿 diàn 堅 jiān こころをして金鈿きんでんかたきにせしむれば
 天 tiān 上 shàng 人 rén 間 jiān 会 huì 相 xiāng 見 jiàn 天上てんじょう人間じんかんかならまみえんと
 臨 lín 別 bié 殷 yīn 勤 qín 重 chóng 寄  詞  わかれにのぞんでいんぎんかさねてことば
 詞  中 zhōng 有 yǒu 誓 shì 両 liǎng 心 xīn 知 zhī ことばなかちか両心りょうしんのみ
 七  月 yuè 七  日  長 cháng 生 shēng 殿 diàn 七月しちがつ七日なのか長生ちょうせい殿でん
 夜  半 bàn 無  人 rén 私  語  時 shí はんひと私語しごとき
 在 zài 天 tiān 願 yuàn 作 zuò 比  翼  鳥 niǎo てんりてはねがわくはよくとり
 在 zài 地  願 yuàn 為 wéi 連 lián 理  枝 zhī りてはねがわくはれんえだらんと
 天 tiān 長 cháng 地  久 jiǔ 有 yǒu 時 shí 尽 jìn てんながひさしきもときりてきん
 此  恨 hèn 綿 mián 綿 mián 無  絶 jué 期  うら綿綿めんめんとしてえるからん
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この記事を書いた人

『方丈記』に感銘を受けて古典文学にのめり込み、辞書を片手に原文を読みながら、自分の言葉で現代語に訳すことを趣味としています。2024年9月から10年計画で『源氏物語』の全訳に挑戦中です。

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