おせちのたたきごぼうの意味は?室町時代から伝わる縁起物?

関西では祝い肴三種の一つとして、おせちの定番であるたたきごぼう。

健康、長寿、豊作、開運など、さまざまな意味を持つといわれる縁起物です。

ごぼうは古くから日本で食されており、たたきごぼうも室町時代には食べられていたのではないかといわれています。

この記事ではたたきごぼうについて、おせちに込められた意味と由来を解説します。

目次

たたきごぼうとは?

たたきごぼうとは、柔らかく煮たごぼうを包丁の峰などでたたいて割り、味を染み込みやすくした料理です。

味付けは醤油、砂糖、酢、すりごまなどを合わせた甘酸っぱい調味料が一般的で、しっかり味が付いているのでご飯のお供にもお酒の肴にも合います。

ごぼうは平安時代に薬草として中国から伝わったとされており、平安時代中期の昌泰しようたい年間(898年~901年)に編纂されたという漢和辞典『新撰字鏡しんせんじきよう』に記載されています。

平安時代末期には野菜としても食されていたようです。

たたきごぼうについては、室町時代の『文明本節用集ぶんめいようせつようしゆう』という用語辞典や、御伽草子おとぎぞうしの一つである『月林草』に登場し、この頃には料理としてあったと思われます。

おせちにたたきごぼうが入れられるようになったのは江戸時代以降といわれていますが、ごぼうは11月~2月に旬を迎えるため、もともとお正月頃に食べられる食材であったことでしょう。

現在では特に関西地方で、たたきごぼうはおせちの祝い肴三種という欠かせない一品となっています。

関西で祝い肴三種に加えられる理由

祝い肴とは、お祝いの膳で出される酒の肴のことです。

「祝い肴三種とお雑煮があればおせちが成り立つ」といわれるほど欠かせない料理で、お正月にはお屠蘇とともに頂きます。

関東と関西で三種のラインナップが異なり、関東では「黒豆・数の子・田作り」、関西では「黒豆・数の子・たたきごぼう」の三品が定番。

田作りとは乾燥させたカタクチイワシの幼魚を炒って甘辛く味付けした料理で、カタクチイワシが田畑の肥料として用いられていたことから「田作り(たづくり)」と呼ばれます。

田作り
たたきごぼう

関西で田作りではなくたたきごぼうがおせちの定番となったのは、大坂の高山牛蒡や京都の堀川牛蒡など江戸時代から関西地方が優れたごぼうの産地であったことが関係しているようです、

ただし江戸でも元禄年間(1688年 – 1704年)に滝野川牛蒡が栽培されていたことから、江戸でもごぼうはよく食べられていたのではないかと思われます。

田作りについても、江戸時代に「ごまめ」という名称で、京都御所の正月儀式に供されていました。

そのため少なくとも江戸時代の時点では、田作りとたたきごぼうに地域差はないように思われます。

そもそもおせち料理が庶民の間で浸透し始めたのは明治時代以降であり、現代のように普及したのは戦後のことです。

雑誌やテレビなどのメディアによって、おせちの定番が定義されていきました。

その過程で関東は田作り、関西はたたきごぼうという定説が生まれ、事実と化していったのではないでしょうか。

あと単純な話ですが、関西では田作りを「ごまめ」と呼ぶ人が多いことから、おせちに田作りが入っていない(ごまめとして入っている)と認識されているだけなのかもしれません。

実際、田作りと聞いてもピンと来ないという人は多いようです。

おせちのたたきごぼうの意味

ごぼうは地中深くに根を伸ばし、力強く成長することから、健康長寿を意味する食材です。

家族や家業が土地に根付いて、安泰に暮らせるようにとの願いも込められています。

豊作の象徴である「瑞鳥(ずいちょう)」に色や形が似ていることから、豊作を願う意味もあるという説がありますが、これにつちいてはどうでしょうか。

瑞鳥の一種とコウノトリを見てみましょう。

ごぼうに見えますか? 脚がごぼうっぽい?

無理ありますよねー(笑)。

ただ、おせち料理は季節の変わり目である「節」に、豊作を願って神様に供する食べ物「御節供(おせちく)」に由来します。

ごぼうは11~2月頃と、お正月に旬を迎える野菜ですので、瑞鳥に似てる似てないにかかわらず、豊作を願う意味が添えられています。

ごぼうでBC級戦犯に?死刑になったって本当?

余談ですが、ごぼうは日本以外ではほとんど食べられることのない野菜です。

太平洋戦争中に日本人将兵が外国人捕虜にゴボウを与えたところ、木の根を食べさせられたと誤解され、戦後にBC級戦犯として死刑に処されたという逸話があります。

確かに「木のように固いラディッシュ(根とは言ってない)を食べさせられた」という捕虜の証言があるようで、処刑されたことも事実ですが、いわゆる切り取り報道のようなものです。

現場であった直江津捕虜収容所は捕虜の10分の1近くが収容中に死亡しており、かなりむごい扱いをしていたことが問題となりました。

ごぼうを食べさせられたことに捕虜が不満を抱いたことは事実であったとしても、それが処刑の理由ではありません。

でもそれぐらいゴボウは外国人にとって美味しいものではなく、日本で特に食べられる野菜です。

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この記事を書いた人

『方丈記』に感銘を受けて古典文学にのめり込み、辞書を片手に原文を読みながら、自分の言葉で現代語に訳すことを趣味としています。2024年9月から10年計画で『源氏物語』の全訳に挑戦中です。

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