万葉集「巻3-338番歌」の原文・現代語訳・作者・万葉歌碑

 しるしなき物をおもはずは一坏ひとつきにごれる酒を飲むべくあるらし

『万葉集』の第3巻に収録されているこの歌は、大伴旅人が天平元(729)年頃に詠んだ「酒を讃むる歌13首」の一つです。旅人は60歳を超えて大宰府へ赴任することになり、赴任直後に奥さんと死別するなど不遇の晩年を送っていました。お酒で心を癒やしていた旅人は、酒を讃えずにはいられなかったのかもしれません。

鴨

酒カスの自分を正当化したかっただけかも(笑)

目次

『万葉集』第3巻 338番歌の現代語訳

原文

 驗無物乎不念者一坏乃濁酒乎可飲有良師

読み下し文

 しるしなき物をおもはずは一坏ひとつきにごれる酒を飲むべくあるらし

現代語訳

 考えても答えの出ない物思いにふけってないで、一杯の濁り酒を飲むのが効果あるらしい


語釈
  • しるし【験】:効験。ききめ。効果。
  • にごれるさけ【濁れる酒】:中国では濁り酒を「賢」と呼ぶことから、濁り酒を飲む人は賢いという意が含まれている。

大伴旅人の酒を讃むる歌13首

大伴旅人が詠んだ讃酒歌十三首
  1. しるしなき物をおもはずは一坏ひとつきにごれる酒を飲むべくあるらし
  2. 酒の名をひじりおほせしいにしへおほき聖のことのよろしさ
  3. いにしへななさかしき人どももりせしものは酒にしあるらし
  4. さかしみと物言ふよりは酒飲みてゑひ泣きするしまさりたるらし
  5. 言はむすべせむすべ知らずきはまりてたふときものは酒にしあるらし
  6. なかなかに人とあらずは酒壺さかつぼに成りにてしかも酒にみなむ
  7. あなみにくさかしらをすと酒飲まぬ人をよく見ばさるにかも似る
  8. あたひ無きたからといふとも一坏ひとつきにごれる酒にあに益さめやも
  9. 夜光よるひかたまといふとも酒飲みて心をやるにあにしかめやも
  10. 世の中の遊びの道にすすしくはゑひきするにあるべくあるらし
  11. このにし楽しくあらばむ生にはむしとりにもわれはなりなむ
  12. 生ける者つひにも死ぬるものにあればこのなるは楽しくをあらな
  13. もだをりてさかしらするは酒飲みてゑひきするになほしかずけり

『万葉集』第3巻 338番歌の万葉歌碑を訪問

『万葉集』第3巻 338番歌の万葉歌碑 / 2024年9月15日訪問

 しるしなき物をおもはずは一坏ひとつきにごれる酒を飲むべくあるらし

 現在、この歌が刻まれた万葉歌碑が福岡県飯塚市の飯塚市歴史史料館にあります。ぜひ行ってみてください♪


『万葉集』第3巻 338番歌の万葉歌碑
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この記事を書いた人

うつ病で生きづらさを抱えていた30代の頃に、鴨長明『方丈記』を読んで大共感。「人の悩みは昔も今も変わらないものだ」としみじみ感じ、学生時代はまったく興味がなかった古文や漢文の魅力に初めて気づきました。20年計画で『源氏物語』と『万葉集』の全訳にも挑戦中。万葉歌碑めぐりや街道歩きなど歴史探訪も好きです。

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